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第154回
“自発的に年金を貰わない”制度をご存知ですか?
社会保険労務士 桶谷 浩
● 年金が欲しくないという相談
  先日、公的年金をメイン業務としていないと、いや、していても人によっては一生出会わないかもしれない、面白い事例がありました。
  「60〜65歳までの年金は絶対に要らない。確かそんな制度があるだろう」――。そういう風に強硬に言い張るお客さんがいたのです。
  一般的に年金は喉から手がでるほど欲しいものです。なんで必要ないのかさっぱりわかりませんけれど、とにかく「年金は欲しくない」、「自分が年金を貰わなければ、その分国の年金財政は助かるからいいだろう」などというようなことまでおっしゃる。納得できる理由はありませんでした。
  ただし、将来もずっと要らないのかと思ったらそうではなく、65歳から後の年金は欲しいとおっしゃるのです。ここもあわせて理解しがたいものでした。
  平成19年4月から、年金を受け取ることを辞退できる「年金給付の支給停止の申し出」ができるようになりましたが、その事例にかかわったのは今回が初めてです。
  めったにある相談ではないのですが、年金の仕組みを理解する上で面白いものなので、今回はこの制度について触れてみたいと思います。
● 年金支給停止の仕組みの意義
  そもそも、年金給付の支給停止のしくみは、ある程度お金のある方を対象としたものと一般には考えられています。「総資産が何十億円もあるような資産家が、月額15万円程度の年金を受け取るのはどうなのか」、「特に国民年金には国庫負担という補助があり、そんなお金持ちまでがその恩恵にあずかるのは不公平ではないか」、「お金のある人は自発的に辞退をしたらどうか」などという議論や批判は以前からありました。
  ところが、公的年金は法律できっちりとしくみが決められているものですから、嫌だといっても一旦受給の手続きをしてしまえば誰にでも、年金の受取口座に自動的にお金が振り込まれます。公的な年金ですから当然です。
  最初から年金を受け取らない、それならばずっと手続きをしないでおけばいいだろう――。
  確かにそうです。しかし、生涯1円も年金を貰わないで良いならばそれでも良いのですが、今回の例のように期間を区切ってある一定の時期だけ「年金を受け取らない」ということはできません。資産家でも「現役で働いている間は年金は要らないが、引退後は資産の目減りを防ぐために受け取りたい」と考える人もいるでしょう。年金給付の停止の申し出は、「申し出た月から申し出を撤回するまでの間」停止されますので、手続きをしないのと比較にならないほど柔軟性があるのです。
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