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第157回
もう60歳ではリタイアできない時代
社会保険労務士 桶谷 浩
● 65歳まで働けるように法改正されたけれど…
  高年齢者雇用安定法が改正され、今年の4月から今まで法律の抜け道として使われていた「労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定める」というしくみを使うことができなくなりました。
  このように説明すると分かりにくいですが、要するに「60歳定年の会社も希望者全員が65歳まで働ける何らかの雇用制度を用意しろ」ということです。
  給与は同じにする必要はなく、下げてもよいですし、労働形態も変えてもよい、子会社や別のグループ会社に行くという形態でもかまわないし、とにかく何でもいいから「雇用を確保しなさい」というのが主な内容となっています。
  60歳以降の雇用について、年金相談では定年後も働けるということでおおむねありがたいとおっしゃる方がほとんどですが、中には「今までと全く同じような仕事をするのに、50万円だった給与が60歳過ぎたら25万円になるとは何事だ、体調もいまひとつだし辞めてやる!」と息巻いている方もいらっしゃいます。今回はそんな話です。
● 20年ちょっとでこんなに変わった
  ここでAさん、Bさん、Cさんの3名に登場してもらいます。
Aさん:昭和15年5月1日生(定額部分、報酬比例部分ともに60歳から支給開始)
Bさん:昭和26年5月1日生(定額部分はなし、報酬比例部分は60歳から支給開始)
Cさん:昭和36年5月1日生(年金は65歳から支給)
  ※いずれも2歳年下の専業主婦の妻あり。
  3人とも、20歳から60歳までの40年間を平均標準報酬月額30万円(賞与3.6カ月)で働いたとすると、おおよそ102万円の厚生年金になります。定額部分は78万円(老齢基礎年金もほぼ同額の78万円)ですので、厚生年金と合わせて年額で180万円、月額で15万円の年金となります。
  なおこの数字は、特例水準や経過的加算の話などを無視しています。そもそも60歳になった時点で適用される計算式(スライド等を含む)は年齢が違えば異なりますから、あくまで「理論的に状況を比較するため現時点における計算式でのシミュレーションの数字」とご理解ください。
  65歳になるまでの年金は、以下のようになります。
Aさん:60歳から180万円の年金+加給年金39万円(219万円の年金を受け取ります)
Bさん:60歳から報酬比例部分のみの102万円の年金を受け取ります
Cさん:受け取ることのできる年金は全くありません
  60歳からの5年間の年金受取額累計は、Aさん1,095万円(219万円×5年間)、Bさん510万円(102万円×5年間)、Cさん0円です。
  夫婦2人が平均より少し質素な生活をしたとして、1カ月の生活費が25万円、年間300万円としましょう。必要額は、5年間で1,500万円です。
  不足額は、Aさんは405万円、Bさんは990万円、Cさんは1,500万円(全額)になります。退職金の平均額が1,800〜2,000万円程度として、もし何もしないのであればCさんは65歳という老後の入口で退職金の7〜8割ほどを使ってしまう計算になります。
  これではとても、その後の老後の生活が成り立ちません。
  夫が67歳になるころからは2歳年下の妻が国民年金を受け取り始めるため、夫婦合計、つまりその家庭の受け取る年金額は増額し、厳しい状況は少し改善するかもしれませんが、それまでの間にごっそりと蓄えを減らしてしまうことは大問題です。
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