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第164回
障害特例の取り扱いの改善(年金の遡及の話2)
社会保険労務士 桶谷 浩
● 障害者特例の制度のおさらい
  前回とはテーマが全然違いますが、取り扱い内容としては同じ「年金の遡及」の問題を取り上げます。
  60〜65歳の間の「特別支給の老齢厚生年金」は、以前は定額部分と報酬比例部分に分かれていましたが、支給開始年齢が繰り下がるのに伴い、今年60歳を迎える男性は
61歳から報酬比例部分のみ、女性は60歳から報酬比例部分、64歳から定額部分が開始となっています。
  この特別支給の老齢厚生年金を受ける場合に、障害者特例というしくみがあるのを御存じかと思います。
  これは、障害状態を前提とするもので、障害等級3級以上の状態に該当した場合には、特別支給の老齢厚生年金の定額部分と報酬比例部分を合わせて受け取れるものです。
  60歳以降、障害年金と老齢年金の受給権が重なった場合は、有利なほうを選択すればよいのですが、長い間サラリーマンとして働いてきた方はこのしくみのおかげで特別支給の老齢厚生年金のほうが多いことも結構多いのです。
  昨年60歳で退職した会社員で、50歳の時心臓ペースメーカーを装着した方の例です。
  この方の場合、50歳の時の心臓ペースメーカーの装着により3級の障害厚生年金を受けているはずです。そして所定の年齢に到達すると、「特別支給の老齢厚生年金」の受給権も発生します。この時、「障害厚生年金」と「特別支給の老齢厚生年金」との選択になり、どちらか多いほうをもらう選択をするわけです。注意すべき点は、特別支給の老齢年金の「報酬比例部分」の年金と「障害厚生年金(3級)」を比較するのではなく、「定額部分+報酬比例部分」を比較の対象とすることです。障害等級が2、3級では、30年、40年とサラリーマン期間が長い方は老齢厚生年金を受けることが有利になることが多いでしょう。特に3級該当の障害は障害基礎年金が支給されませんから、圧倒的に特別支給の老齢厚生年金が有利になるはずです。厚生年金に30年ほど加入している場合であれば、定額部分の老齢厚生年金が60万円ほど、それに奥さんがいれば加給年金も支給されるので、障害者特例がない場合と比べて年間100万円程の差がつきます。
● この制度も遡及がなかった
  さて、この障害特例ですが、これも「遡及しない年金のグループ」でした。
  ですから、既に障害等級3級以上の状態になって障害年金を受ける権利があれば「なるべく早く請求が必要」だったのです。先の障害年金を受けているペースメーカー装着者の方も、63歳の時そんな制度があるのかと気づいてあわてて書類を出しても、有利になるのはそれから後の期間の2年だけでした。
  遅れれば遅れるほど不利になる。月末ならば大急ぎで書類を整えて年金事務所に持っていかないと、1カ月分の年金を損してしまいます。
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