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第169回
障害年金受給者の悩ましい選択
社会保険労務士 桶谷 浩
● 障害基礎年金を受け取ると
  先日ご相談を受けた50歳の女性の話ですが、体の調子がわるく、最近、障害基礎年金を請求し、2級に認定されたとのことでした。
  障害のある人が障害基礎年金を受給している期間は、法律上は「法定免除」に該当し、保険料を納付する必要がありません。
  また、障害基礎年金の支給額は、障害等級2級で40年全期間保険料を納付した場合と同じ金額、1級であればその1.25倍となります。老後の国民年金(老齢基礎年金)より同じか多い金額が確実に受け取れるのです。
  法定免除されたわけですから、今後、保険料を納付したとしても、免除の手続きをして保険料を納付しなかったとしても、障害基礎年金を受け取れる限りは、年金額の多寡であれこれ悩む必要はありません……というのは障害の状態が永久固定した人の場合の話です。そうでなければ、「これからは全く保険料を支払う必要なんてない」と決め付けられないというのが今回のお話です。
● 障害状態は一定とは限らない
  障害の状態が永久固定(つまり全く治癒する見込みがない)のものであれば、問題は難しくありません。障害等級に変更はないのですから、この方の場合は生きている間はずっと障害等級2級の障害基礎年金を受け取れることになります。つまり、支払った保険料がいくらであろうと、年金額を気にする必要はありません。
  ところが、普通の病気・ケガ等の場合はそうはいきません。病気は重くもなりますし軽くもなります。仮に病気やケガが回復に向かい、障害等級3級に達しない状態になれば、障害基礎年金は支給されなくなります。そうなれば老齢基礎年金の対象になり、納付した保険料によって年金額に影響が出てくるのです。
  実務的にも、障害基礎年金は永久に症状が固定の場合でなければ定期的に診断書の提出が求められ、その状況に応じて等級の変更等があったりするのです。
  そこで法定免除が問題になってきます。保険料免除となった場合、老後の国民年金額を計算する際には、その期間に応じた年金は半額として計算されることはご存知かと思います。40年間まるまる免除期間であれば、受け取る老齢基礎年金の額は20年間保険料を全額納付したとして計算したのと同じ額になります。
  ご相談の女性の場合、今までにも免除期間(こちらは経済的理由による申請免除の期間)と、カラ期間(学生時代等)があり、今後60歳までの期間を全部法定免除期間としたとすれば、仮に障害状態が回復して障害基礎年金が支給されなくなった場合、30年ほどの保険料払込期間に相当する分の国民年金(老齢基礎年金)しか支給されないことがわかりました。全期間保険料を納付した場合の4分の3、月額48,650円ほどですね、40年満額より16,000円ほど少なくなります。
  障害状態が改善していくのは、その人にとっては大変喜ばしいことです。しかし同時に「障害基礎年金が支給されなくなる」という極めて悩ましい問題が発生してしまうのです。
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