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第174回
あくまでも「もらい始めた時点」です――生計維持要件の話
社会保険労務士 桶谷 浩
● 説明を全く納得されない
  先日、加給年金について繰り返し何度も説明しても、納得されないお客様がいました。
  ご本人は、障害者特例に該当し、例外的に63歳から特別支給の老齢厚生年金に「定額部分」を併せてお受け取りになっていらっしゃる方でした。妻がいる場合、通常は定額部分が開始されるのと同時に加給年金も支給されます。昭和24年4月1日(女性の場合は昭和29年4月1日)以前生まれの場合の定額部分がある60〜65歳の取扱いと同じです。
  ところがこの方の場合は、戸籍上は奥様がいらっしゃるのに定額部分には加給年金がついていませんでした。そしてそれがどうしても理解できない様子でした。
● 要件が充足してなかった
  詳しく事情をお聞きしたところ、「妻とは5年前に別居」状態であるとのこと。
  年金制度についてある程度ご存じの方であれば、この状況がまずいことにピンとくるはずです。加給年金が開始されるためには「生計維持要件」が必要だからです。
  それを証明するため、「戸籍」「住民票」「年収の証明(住民税の課税非課税証明証)」の3点セットが事務処理の際にきちんと揃っていれば全く問題ありません。しかし、そのうちの1つでも欠けていれば、欠けている点について補足をしなければなりません。
  その方は、戸籍は同一の戸籍(離婚していない状態)であり、奥様の年収も850万円を超えていない状態で2点はクリアしていましたが、夫婦が別のところに住んでいる――つまり夫と妻の住民票の住所地が違う状態でした。
  通常同居をしていない場合は生計維持の申立書を書き、その理由があるがその理由がやむを得ないということを申し立てることになります。
  理由として多いのが、「単身赴任」です。
  全国転勤がある会社の場合、どこで仕事をするかは会社が決めることですから、東京に一戸建てやマンションを買ってしまい、妻もパートをやめられないので夫だけ単身赴任する――こういったケースは以前から多いと思います。
  また最近増えているのは、介護が理由の別居です。
  介護のために遠く離れた実家に妻が帰ってしまった。たびたび帰るという状態ではなく、腰を据えての介護のため住民票も移さざるを得なかった――という場合です。
  こういったケースはよくあることですし、大抵の場合は別居がやむを得ない理由として認められ、加給年金を支給していいだろうと判断されて当然だと思います。
  ただし注意していただきたいのは、あくまでも「住民票を移していた場合」ということです。住民票を移さない別居の場合は、形式的に同居している夫婦とまったく見分けがつきませんから問題となることはありません(とはいえ、実質夫婦関係が破たんしているのに加給年金を受け取れるということは年金制度的には問題があると思いますが…)。
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