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第175回
熟年結婚と熟年離婚
社会保険労務士 桶谷 浩
● 駆け出しのころ
  年金の仕事を始めて10年以上になりますが、駆け出しのころ、先輩の方々に年金についていろいろと教えていただくことが数多くありました。
  そのうちのある先生は、相談者が60歳前で事実婚状態にあった人に対しては、けじめをつけて入籍することを強く勧められていました。それは加給年金および振替加算、また万一の際に遺族厚生年金をスムーズに受け取れるためにという観点からなされたアドバイスです。
  これは10年以上も前の話ですから、状況は今とは若干違います。
  その当時の加給年金は、夫が定額部分を受ける時から妻が65歳まで支給されるため受け取れる期間が長く、またそのあとの振替加算を受けられる額も、現在、年金支給開始年齢を迎えた人よりはるかに多かったのです。例えば、昭和18年4月生まれの女性は年間12万2,500円ですが、昭和28年生まれの女性は年間6万2,700円と倍近く差があります(平成25年度価格)。つまり、現在に比べて当時は加給年金、振替加算の受け取りの問題は年金相談において非常に重要な地位を占めていたのです。
  なおかつ、当時は年金問題が発生する前で、年金業務に関しての社会保険事務所の対応は非常にお役所的(相談者の中には担当職員の高圧的態度のため社会保険事務所には行きたくないとおっしゃった人もいたくらい)で、かつ担当者の融通が利きませんでした。そのため、法律的に婚姻関係になくても、事実として婚姻関係にあるのであれば、加給年金や遺族厚生年金については受けられることになっていましたが、実際の手続きやその証明が今より大変だったのです(まだ私は駆け出しのころなのでそのような経験がなく、伝聞で表現するしかないのですが)。
  そのようなことから、事実婚の相談者が不利にならないよう、「自分たちの年金受給権は自分たちで守る」という意味でアドバイスをされていたことは想像に難くありません。法律的に婚姻関係になってしまえば、年金請求においては全く問題が生じないからです。
  時代が巡って今日ではその重要性は少し薄くなりましたが、全く無視できるものでもありません。
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