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登場人物は、会社員Aさんとその奥さんのBさんとしましょう。
Aさんは、ある休日の午後、家の近所を散歩していましたが、偶然通りかかったマンション建設現場で上から鉄骨が落ちてきて、運悪くその下敷きになり、亡くなってしまいました。
そうすると未亡人となったBさんは、当然マンションの建設業者に損害賠償を請求します。金額を算定するにあたって、仮にAさんが平均余命まで生きた場合に得られたであろう給与その他の逸失利益を計算し、それを損害賠償額に含めることになります。その中にはAさんがもしも生きていたなら老後に受け取っていたであろう年金も含まれます。現在の給与で退職年数まで働いたと仮定すれば年金額は算定できますから、それを平均余命までもらい続けたと仮定すればみなし年金額の総額を出すことができます。
ここまでの流れは、みなさんも素直に頭の中に入ると思います。自分もそこまでは何の疑問も感じませんでした。
ところでこのBさんですが、仮に夫が生きていたら受け取ったであろう老後の年金の話とは別に、実際は夫が在職中に死亡しているわけですから、「遺族厚生年金」を受け取ることができます。当然Bさんは、遺族厚生年金の請求手続きをされるでしょう。
そうすると、そこで疑問が生じます。
Bさんは、Aさんが生きていたなら受け取ることができたであろう老後の年金を逸失利益の中に入れて損害賠償額を計算しています。それと同時にBさんは、Aさんが亡くなったことにより遺族厚生年金を受け取っているのです。
もし、Aさんが前述のような人為的な事故によるものではなく、普通の病気で死亡していたならどうなるのでしょう?
制度上Bさんは、遺族厚生年金は受け取れても、Aさんが亡くなっているためAさんの老齢厚生年金は受け取ることはできません。Aさんが老後受け取る年金とBさんの遺族厚生年金とは表裏一体の関係であり、Aさんの老後の厚生年金が遺族厚生年金に形を変えてBさんに移ったと考えることもできますから、両方受け取れることはあり得ません。
そう考えると、今回のケースのように、損害賠償請求の中にAさんが将来受け取るはずであった老後の年金を入れ、同時にAさんの死亡によって遺族厚生年金を受け取る――これでは実質的にBさんは年金の二重取りをしていることになるけれど許されるのか? そんな疑問が浮かびます。
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