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第204回
全額停止と繰下げ請求
社会保険労務士 桶谷 浩
● 非常にわかりにくい老齢厚生年金の全額停止と繰下げ
  先日同業者から問い合わせの電話がありました。
  ご相談の主は、65歳になられる会社の社長さんで月の報酬が100万円だそうです、年金保険料の標準報酬は最高等級に属します。
  「お金にも不自由していないし、65歳からの年金は繰下げ受給したいけれどどうだろうか?」という質問でした。
  まず基礎知識として、繰下げの場合は、国民年金と厚生年金はセットでしないといけない繰上げ請求と異なり、国民年金と厚生年金のどちらかだけを繰り下げることができるのは皆さんご存知かと思います。
  そして国民年金は、在職老齢年金の調整の対象とならないため、在職中であっても給与の額の多寡にかかわらず支給されます。したがって、「繰下げを選択した場合」はその期間に応じて所定の割増率で年金が増えることになります。
  しかし、厚生年金の場合は上記の社長の場合ですと在職老齢年金が全額停止となりますから、これを繰り下げる意味があるのかという疑問がわいてきます。
  私も以前それで間違えた説明をしたことがあります。
  65歳からの老齢厚生年金は、報酬比例部分と経過的加算部分で構成されています。報酬比例部分は、給与(平均標準報酬(月)額)に加入月数、乗率を掛けて計算されるものです。経過的加算部分は、20歳まで、あるいは60歳後の期間(つまり老齢基礎年金の計算対象とならない期間)を加入期間として計算される定額部分に準じる部分と、国民年金との計算式の違いによる差額部分です。ねんきん定期便の年金見込み額には経過的加算(差額加算)の欄がありますからご覧になった方も多いかと思います。
  この経過的加算部分は、「在職老齢年金の対象」となりませんので全額支給対象です。つまり、厚生年金には在職老齢年金の調整対象とならない部分が若干ですが必ずあるのです。
  結論として、厚生年金が全額停止されている人であっても、厚生年金の繰下げは「意味がある」ということになります。
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