Home > 税と社会保障 > 知ってビックリ!年金のはなし

第205回
年金受給権が重なる時の繰上げと繰下げ
社会保険労務士 桶谷 浩
● 前回の説明のおさらい
  前回の説明で、在職老齢年金の支給停止がかかっている時の繰下げ支給の話をしました。
  65歳以降の給与が高く、厚生年金が全部または一部停止される状態で繰下げを選択した場合、実際に受け取った「平均支給率」に「増額率」を加味して加算額が算出されるという話が前回の内容でした。
  簡単にいうと、全額停止の場合は、報酬比例部分については繰下げによる増加効果はゼロ。一部停止の場合は、平均支給率が40%だったら40%×42%(5年の割増率)ですから16.8%の増加となります。
  今回はもう一つの側面、他に年金の権利がある場合、つまり遺族年金や障害年金がある場合の老齢年金の繰上げ、繰下げの可否について考えてみます。
● 受給権が重複している場合の繰上げは検討の対象外
  まず繰上げです。
  たとえば老齢基礎年金を65歳から満額78万100円受けられる人で、同時に障害基礎年金(2級78万100円)を受給していた場合を考えましょう。
  私はこのケースに遭遇したことがありません。
  それは当たり前で、65歳までの期間に障害基礎年金を受給していれば、わざわざ繰上げ請求をして65歳からもらえる老齢基礎年金を減額してまで早くからもらう意味は全くありません。
  しかも障害基礎年金は、病気けがの状態が改善すれば支給停止されることも考えられるので、そのような事態に備える意味からも、支給額が下がる繰上げの選択は普通ならしないでしょう。
  年金の受給権が2つ以上あり、どちらかを選択して受け取る場合、繰上げたことによって年金額が多くなる場合でないと繰上げの意味がないのです。
  たとえば中高齢寡婦加算が加算されない遺族厚生年金を40万円もらっていた女性(厚生年金加入期間なし)がいたとします。老齢基礎年金の78万100円の5年繰上げ支給を選択した場合、年金額は54.6万円ですから、遺族厚生年金との差はわずか14.6万円しかない訳です。しかも65歳からの基礎年金は減額されたままとなります。この場合、65歳までは40万円の遺族厚生年金を受給し、65歳から満額の老齢基礎年金を受給するほうが受給額としては有利になります。
  説明をすると難しくなりますが、受給権が重複している場合は、繰上げの検討対象外と単純に覚えておきましょう。
※ これ以降は会員専用ページです