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現実味を帯びてきた厚生年金基金の廃止問題
年金数理人/日本アクチュアリー会 正会員 中林 宏信
● 10年かけて制度そのものを廃止に!?
  11月2日、厚生労働省は、厚労相の諮問機関である社会保障審議会の下部組織、年金部会専門委員会に「厚生年金基金制度の見直しについて(試案)」(以下、改革試案)を提示しました。
  改革試案では、改正法の施行日から10年かけて厚生年金基金を段階的に縮小し廃止することが示されました。まず、法施行日5年以内に代行割れしていない基金は、確定給付企業年金等へ移行するか、解散を自主的に選択させ、他の企業年金への移行を促進するための特例を設けるとしています。代行割れ基金については、連帯債務をなくすなど特例解散を見直し、解散を促すとしています。そして、法施行後5年経過後は代行部分の保険料を厚生年金本体へ強制納付、法施行後10年経過後は残る厚生年金基金の代行部分は全て国に移すとしています。また、最低責任準備金の計算方法の見直しによる企業負担の軽減や解散要件の緩和なども盛り込まれました。
  改革試案が提示される約1か月前の9月28日にも、「厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する特別対策本部」が開催され、厚生年金本体の財政に影響を与えかねないことや母体企業の経営リスクの高まりから厚生年金基金を一定期間の後に廃止する方針が打ち出されていました。遡れば、民主党の年金積立金運用の在り方およびAIJ問題等検証ワーキングチームも4月24日に「AIJ問題再発防止のための中間報告」で厚生年金基金制度を一定の経過期間終了後、廃止すると明示していましたから、基本的な方向性は変わっていません。しかし、今回の改革試案は厚生年金基金関係者には強いインパクトを与えており、その動向が注目されます。
  連日の報道では、厚生年金基金が廃止されるような印象を与えていますが、正式に決まったわけではありません。厚生労働省が作成した改革試案について検討を行い、年内を目途に年金部会としての成案を得た上で、来年の通常国会に関連法案を提出して審議される予定です。また、すぐに廃止というわけではなく、適格退職年金廃止と同様の10年の廃止経過期間が盛り込まれ、実際に廃止に至るまで相当の時間がかかるのではないでしょうか。
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