Home > 税と社会保障 > お客さまの信頼を得る相続対策のご提案

第1回
「生命保険を葬儀費用に使えるようにするには?」
一般社団法人日本想続協会 代表理事/税理士 内田 麻由子
  相続には「財産の相続」と「心の相続(想続)」があります。“想続”とは、親の生き方、想い、信条など目に見えない財産を受け継ぐことです。目に見える財産の相続も大切ですが、それ以上に大切なことは、子供たち全員で親の心を“想続”することなのです。
  「円満想続の3K」は「感謝・絆・供養」です。家族への感謝、家族の絆、先祖の供養――この3つが共有できているご家族は、円満な相続になることが多いのです。
  みなさんがお客さまから相続についてご相談を受けた際には、ご相談者や一部の相続人の利益のみを考えるのではなく、ご家族の円満な相続に気を配り、サポートしていただきたいと思います。
  この連載では、相続のご相談のさまざまな事例を通して、お客さまとの信頼関係をより深くするためのヒントをご紹介していきます。
  さて、今月は「生命保険は葬儀費用に使える」ということについて、一緒に考えていきましょう。 「そんなことは知っているし、すでにお客様にもご提案しているよ」と思われるかもしれません。しかし、お客様が必要なとき、すぐに保険金を葬儀費用に充てることができるようにアドバイスしているでしょうか?
● “終活”をしていた夫が突然亡くなってしまったら?
  最近は「終活」がブームになっていますね。「子供に迷惑をかけないように、自分の葬儀やお墓の準備をしておきたい」と考える方が多いようです。
  横浜市に住む武雄さん(70歳)もそんな一人です。いくつかの葬儀社に相談に行き、自分の葬儀の生前予約をしました。葬儀費用の見積もりは200万円です。武雄さんは、「預金は十分あるし、生命保険にも入っているので、自分の葬儀については何の心配もない」と思っていました。ただ、妻の静子さん(68歳)が最近病気になり、入退院を繰り返しているため、「もしかしたら静子のほうが先に逝ってしまうのでは……」と心配していました。
  ところが、武雄さんはある日、散歩の途中で倒れ、救急車で病院に運ばれましたが、3日後に亡くなってしまいました。静子さんはあいにく入院中でした。武雄さんには、東京に住む長男の和也さん、奈良に嫁いだ長女の舞さん、北海道に住む二男の達也さんの、3人の子供がいます。3人の子供たちは、幸いにも父親の最期に立ち会うことができました。しかし、悲しみに浸っている余裕もなく、死亡するとすぐに遺体を病院から搬出しなければなりません。子供たちは、武雄さんが葬儀の生前予約をしていることについては、何も知らされていませんでした。ですので、病院に駐在していた葬儀社に、遺体の搬送とその後の葬儀まで依頼してしまいました。妻の静子さんが入院中のため、葬儀の喪主は長男の和也さんが務めました。
  葬儀が終わって数日後、葬儀費用を支払わなければなりません。しかし、武雄さんは財産の管理をすべて一人でしていたため、妻の静子さんには何もわかりません。通帳や印鑑など大事なものは、武雄さんの机の引き出しに入っていましたが、どの印鑑がどの通帳のものかもわからず、キャッシュカードの暗証番号もわからないので、預金からお金を引き出すこともできません。仕方がないので、葬儀費用については、喪主を務めた長男の和也さんが立て替えて支払いました。
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