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借入金と相続放棄
FP EYE 澤田朗FP事務所 代表/日本相続士協会 理事 澤田 朗
  以前にライフプランのことでご相談いただいた男性の方(クライアント)から、「妹の相続のことでも相談に乗ってほしい」とご依頼がありました。クライアントは3人きょうだいで、妹さんが2人いらっしゃるそうですが、先日、上の妹さん(3人きょうだいの真ん中)が1年にわたる闘病の末、亡くなられたとのこと。まだ30代後半の若さでした。
■ 債務は法定相続分で相続人に「当然分割承継」される
  亡くなられた妹さんの遺品を整理していたところ、1通のハガキが出てきました。それはカード会社からの明細書で、借入金の残高は100万円程度あったそうです。妹さんには預貯金やこれといった財産はほとんどなく、生命保険や医療保険にも加入していませんでした。マイナスの財産である借入金の額のほうが多いということでした。
  悲しみに暮れている間もなく、この借入金をどうしようかということでご相談を受け、最終的に「相続放棄をしたい」ということになり、手続きを進めることになりました。
  そもそも借入金等のマイナスの財産はどのように相続をされるのでしょうか。今回のケースでは、妹さんはお付き合いをされている方はいらっしゃったのですが、ご結婚はされておらず、入院前までご両親と同居していました(クライアントと下の妹さんはそれぞれ結婚して別居されています)。つまり、妹さんのご両親のお二人が相続人となり、相続放棄をしない場合には借入金も含めた財産を相続することになります。
  例えばお二人の間で遺産分割のお話をして、お父様が借入金を相続する(返済をしていく)と決めた場合、「お二人の間では」この決め事は有効となります。ただし債権者(このケースではカード会社)から見ると、この取り決めは必ずしも有効になるとは言えません。債権者が承諾をした場合(免責的債務引受といいます)には有効となりますが、それ以外の場合、債権者は相続分に応じた返済を各相続人に請求することができ、相続人はそれを拒むことはできません。これは過去の判例で決定している事項となります。
【東京高裁昭和37年4月13日決定】
遺産分割の対象となるものは被相続人の有していた積極財産だけであり、被相続人の負担していた消極財産たる金銭債務は相続開始と同時に共同相続人にその相続分に応じて当然分割承継されるものであり、遺産分割によって分配せられるものではない。
  つまり、相続人間で債務を誰が引き継ぐかを決めたとしても債権者には関係なく、債務は法定相続分で「当然分割継承」され、債権者は各相続人に返済を請求することができるということになります。
  ただし、今回のケースでは、お父様(65歳)は細々とではあっても自営業をされていて収入があり、お母様(62歳)は体が弱くて自営業は手伝っていない専業主婦ですので、お二人が相続(単純承認)された場合、カード会社はお父様に借入金の返済請求をすることになると思われます。
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