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「家から出て行ってちょうだい!」と言われた
相続人にはなれない“内縁の妻”の話
佐川京子行政書士事務所 代表/ファイナンシャル・プランナー 佐川 京子
連れ合いを亡くした者同士が一緒に暮らすようになり、子どもへの手前、籍を入れずに事実婚のままにしていた事例を紹介しましょう。内縁の妻に貯金や年金が少なくほかにめぼしい財産がない場合は、内縁の夫にもしものことがあったときに備えて経済的に助けになる準備や対策がいかに必要かという話です。
■  配偶者を亡くした者同士の出会い
  桜前線が日本を駆け抜けた5月のある日、野田徹さん(仮名・73歳)は、愛する人に手をにぎられて、静かに息を引き取りました。かたわらでは野田さんの1人娘の柴崎麻里さん(仮名・40歳)も最期をみとっていました。一見穏やかな風景に見えましたが、このときを境に野田さんの愛する人は自分の境遇が激変するとは予想だにしていませんでした。
  野田さんの手をにぎっていたのは、籍を入れていない内縁の妻である岩倉喜子さん(仮名・65歳)でした。徹さんと喜子さんは、約11年前に地域のカラオケサークルで知りあいました。同郷であり、配偶者を亡くして1年目を迎えた者同士でしたので、2人で出かけるようになるのには時間はかかりませんでした。いつしかお互いの家を行き来するようになり、知り合ってから1年半後に徹さんのマンションで一緒に暮らしはじめました。
  喜子さんは前夫との間に子どもはなく、専業主婦をしていましたが、夫の死後はパートで働いていました。知人の懇意で安く貸してもらったアパートの1室に住んでいましたが、建て替え話が持ち上がり立ち退きを迫られました。住むところに困って徹さんに相談したところ、「一緒に暮らさないか」と言われて2人は事実婚に踏み切ったのです。
■  一緒に暮らし始めたが、籍は入れずにいた
  徹さんは料理はやらず、前妻を亡くしてからは、麻里さんがときどき来て作り置きした料理を温めて食べたり、スーパーでお惣菜を買ってくるという食生活でした。喜子さんと一緒に暮らすようになって、彼女が料理や家事をやってくれるので、徹さんは喜子さんとの再婚を考えました。しかし、1人娘が再婚を受けて入れてくれるか不安があり、言い出せずにいました。そして、そのうち話せばいいかと考えるようになり、籍は入れずに暮らしていました。
  一方、喜子さんは、1人暮らしは何かと不安があったので、2人での生活は安心と安全を手に入れることができたと感じていました。同居してからは、パートは辞めて徹さんの世話に専念していました。しかし、喜子さんの貯金は少なく、将来もらえる自分の年金も少ないことはわかっていたので、徹さんと正式に再婚したいと思っていました。でも、喜子さんも徹さんの娘に再婚の話をしたら何を言われるかとても怖く、また徹さんも何も言わないので、入籍のことはあきらめていました。ただ、知人から事実婚でも要件があえば遺族年金がもらえることを知り、住民票は徹さんと一緒にすることにしました。
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