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子は鎹(かすがい)とはよく言ったもの
妻側には財産を渡したくないと準備をはじめたが…
佐川京子行政書士事務所 代表/ファイナンシャル・プランナー 佐川 京子
たとえお互い冷え切った関係の夫婦であっても、相続において配偶者の権利は強固なものがあります。ましてや夫婦をつなぎとめる“鎹”であった一人息子を亡くしたことがきっかけで、二人の間に亀裂が入ってしまったのなら、もう関係修復は不能なのかもしれません。子どものいない夫婦の場合、配偶者に財産を渡したいという相談は多いですが、今回はその逆、渡したくないというレアケース(?)を紹介します。
■  父親と同じ年齢で亡くなるかもしれないとの思いにかられる
  毎年、お盆の時期には帰省してお墓参りをしている伊東忠雄さん(73歳・仮名)は、ある年、帰省したときに、もしかしたら、父と同じ年齢で死ぬかもしれないとふと思ったのでした。
  父親は、22年前に、75歳のときに心臓病で亡くなっています。家系的に心臓病で亡くなる人が多かったので、忠雄さんは、自分も心臓病で亡くなるかもしれないと思い始めました。そう思うと、父親の享年まであと2年しかないことに気づき、少し気持ちに焦りが出てきました。
  そして、自分が死んだ後のことを考え始め、相続について調べることにしました。
■  自分の相続は妻が4分の3?
  忠雄さんが亡くなったら、法定相続人は、妻の佐知子さん(69歳・仮名)と、忠雄さんの姉の森山奈保子さん(75歳・仮名)と弟の伊東勇さん(68歳・仮名)の3人です。法定相続分で分けた場合、妻が4分の3で、残りの4分の1を姉と弟で分けることがわかりました。
  忠雄さんの財産は、自宅(約1,300万円)と預貯金が約2,000万円ありました。妻の相続分が4分の3ということは、自宅も預貯金も、ほとんどが妻のほうにいってしまう。それは、嫌だと思いました。実は、忠雄さんは、妻とは、3年ほど前から、家庭内別居のような感じなのです。きっかけは、一人息子を交通事故で亡くしたことでした。
  そこで、忠雄さんは専門家に相談をして、できるだけ財産が妻側にいかないように遺言を作ることを決めました。ただ、兄弟姉妹以外の法定相続人には遺留分というものがあり、それは侵害できないと聞きました。妻の場合、遺留分は法定相続分の4分の3の半分。つまり、約3,300万円×4分の3×2分の1=約1,238万円になります。預貯金で、妻の遺留分がまかなえそうでした。でも、忠雄さんは、愛情がなくなっている妻に財産は残したくないという思いが強くありました。特に、自宅の土地は、先祖代々の土地なので、絶対に妻側には渡したくありませんでした。
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