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寄ってたかって未成年の相続人を
食い物にした親族たち
佐川京子行政書士事務所 代表/ファイナンシャル・プランナー 佐川 京子
法定相続人の中に未成年者がいた場合、通常、未成年者は単独で法律行為を行うことができませんから「法定代理人」を立てて遺産分割協議を行うことになります。相続人が親権者と未成年の子(たとえば、母親と未成年の子の組合せ)の場合は、両者の利益が相反することになるため、遺産分割において、親権者は子の法定代理人にはなれません。そこで親権者に代わって子の代理人になる「特別代理人」の選任が必要となります。では、未成年の子が1人だけ相続人だった場合はどうなるのでしょうか? 遺産分割協議は必要ありませんので、それにともなう法定代理人も特別代理人も必要ありませんが、その子の権利を守ってくれる存在がないと大変なことになる恐れがあります。
■  両親が同時に亡くなり、ひとり娘だけが残された
  共働きの池内さん夫妻(池内泰造さん:45歳、池内絵里さん:40歳、登場人物はすべて仮名、以下同様)にとって他人事と思っていた事故が起きたのは、秋の行楽シーズンに久しぶりのドライブを楽しんでいるときであった。泰造さんが運転を誤り、車が崖から転落、2人とも即死だった。夫妻には、高校生になるひとり娘・美穂さん(15歳)がいたが、幸いなことに友達と出かけていたので難を逃れることができた。
  池内さん夫妻のそれぞれの両親はすでに亡くなっており、葬儀に集まった親族は、泰造さんの姉2人(長姉の長瀬頼子さん:55歳、次姉の林田みどりさん:49歳)と絵里さんの叔父である菊池豊さん(60歳)とその妻・弘子さん(55歳)であった。
  葬儀の後の会席で、亡き夫妻の子ども・美穂さんの面倒を誰が見るかという話し合いになった。美穂さんにとって大叔父にあたる菊池豊さんが「養子にする」と言い出した。菊池さん夫妻には子どもがおらず、姪(絵里さん)の子どもである美穂さんをとてもかわいがっていたからだった。
  泰造さんの姉で美穂さんにとって伯母にあたる頼子さんとみどりさんは、驚いたが内心ホッとしていた。というのも、2人ともそれぞれ子どもが数人いたので、これ以上、お金のかかる子どもの面倒を見る余裕がなかったからだ。
  しかし、菊池さんの申し出を即決するのもどうかと思い、美穂さんが菊池さんの家で試しに1ヶ月間暮らしてみて、それから決めようということになり、1ヶ月後に話し合いの日を設けることにした。
  頼子さんとみどりさんは、菊池さんが弟(泰造さん)の相続財産が目当てかもしれないと思い、密かに泰造さんの財産を調べてみることにした。菊池さんが美穂さんを養子にして育てるのは異論ないが、泰造さんの財産がすべて持っていかれてしまうのはしゃくだと思ったからだ。

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