Home > 医療・介護・相続等の現場 > “後の祭り”にならないための相続の話

死後の希望を綴ったエンディングノートも、
遺言も、相続人が従わなければ紙くず同然
佐川京子行政書士事務所 代表/ファイナンシャル・プランナー 佐川 京子
死人に口なしといいますが、死んだ者は残された人たちに釈明や物事のいきさつなど話すことができません。たとえ遺言で財産の分け方を指定していても、その内容が理不尽で相続人にとって納得できない場合、相続人全員が同意すれば遺言と異なる遺産分割が可能です。つまり、その遺言の内容は無効となります。時間をかけて作ったものでも、亡くなった方(被相続人)の想いや願いは相続人の心には届かず、エンディングノートや遺言をせっかく残しても無意味となる可能性が大きいのです。今回はそのようなケースを紹介します。
■  突然死で発見される
  シングルマザーとして2人の子どもを育て上げ、一人暮らしで年金生活を謳歌していた宇田川浅子さん(仮名・79歳)は、突然死のため、死後数日たってから発見されることとなりました。
  発見のいきさつは、浅子さんが約束をしていたボランティアの日に来なかったことでした。浅子さんが連絡もなしに活動に来なかったことはいままで一度もなかったので、仲間が気にして電話をしたのですが出なかったため、何かあったのではないかと思い、浅子さん宅を訪れました。そこで、新聞がたまっているのを発見。不審に思って、緊急連絡先の子どもたちへ連絡をとり、亡くなっている浅子さんが発見されたのでした。
  相続人である子どもたち(宇田川幸助=仮名・55歳、江守清美=仮名・49歳)は、リビングの机の上に、エンディングノートと、ノートの間にはさんであった遺言書を見つけました。
■  思いもよらない遺言の内容
  遺言書は封筒に入っていましたが、封がしていなかったので、子ども達は葬儀の前に見てしまいました。遺言は、自筆証書遺言でした。達筆な浅子さんの字は読みとりにくいところが多くあり、判読に苦労しました。
  浅子さんの相続財産は、自宅(約1,500万円)と預貯金(約1,300万円)のみでした。
  遺言には、自宅は、ボランティアのサークルでお世話になっているNPO法人に寄付すること。預貯金は、3人の孫へ3分の1ずつ遺贈することが書かれていました。
  葬儀は、音楽葬が希望と書いてありました。浅子さんは定年後CDをかけて家事をするのが日課になるほど、お気に入りの歌手がいたので、葬儀には、好きな歌手の歌を流してほしいと歌のリストが5曲書かれていました。しかし、どれもテンポのよい明るい曲ばかりで「葬儀に使うのはどうなのだろうか」と、子どもたちは思案しました。音楽葬というものがあることを初めて知った子どもたちは戸惑ってしまい、結局、菩提寺のご住職に読経いただく一般的な葬儀にしてしまいました。
  お墓については、ハワイでの散骨が希望と、遺言とエンディングノートのどちらにも書かれていました。散骨の理由は、いまは不仲になっていますが、60歳の記念に子どもたちが招待してくれた場所であること、ハワイ旅行までは子どもたちとの仲は良好だったので、そのころのことを懐かしく思っていると記されていました。しかし、散骨を実現してもらうための旅費のことは全くノートには書かれていませんでした。ハワイでの散骨は、費用を遺産の中から出すとしても、孫への遺贈の金額が減るため、子どもたちは躊躇しました。また、散骨の代行を頼むことも考えましたが、代行への不安や手元に遺骨がなくなってしまうことへの寂しさもあり、結局、ハワイでの散骨はせずに浅子さんの親のお墓に埋葬することにしました。
※ これ以降は会員専用ページです