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第1回
交通事故被害による介護費用は,いつ貰えるの?
弁護士/司綜合法律事務所パートナー 中込 一洋
世の中にはさまざまな相談事、悩み事がありますが、法律によって解決を図られるものも多いです。法律を知っていれば不満の残らない方法があったのに…、逆に、法律を知っていたからこそ窮地を逆転できたケースもあります。本コーナーでは、より良い暮らしのヒントになる、お客さまとの話材となるちょっとした法律知識を、弁護士の中込一洋先生に解説いただきます。
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交通事故で植物状態になった夫を介護するため訴訟を起こす妻
ある男性は,交通事故により,頚髄損傷,頭蓋頚椎脱臼,脳挫傷の傷害を負い,1年半ほど治療しましたが,25歳のときに「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し,常に介護を要するもの」として後遺障害(自賠法施行令別表第一1級1号)と判断されました。
寝たきりの状態であり,ADL(日常生活動作)全介助の状態にあり,遷延性意識障害(いわゆる植物状態)のためコミュニケーションができません。そこで,その妻が成年後見人(家庭裁判所で選任される法定代理人)となり,損害賠償請求訴訟を提起しました。
妻は,法的紛争を速やかに終了させて夫の介護に専念したいことを理由として,平均余命まで約55年間生存することを前提として月額約100万円で計算した将来介護料約2億2800万円を一時金として支払うよう求めました
(※1)
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しかし,東京高判平成25・3・14判タ1392号203頁(以下,本判決といいます)は,これを認めず,施設介護を前提として月額25万円としたうえで,これを(一時金ではなく定期金として)毎月末日までに支払うよう命じました。
その理由は「平均余命を前提として一時金に還元して介護費用を賠償させた場合には,賠償額に看過できない過多あるいは過小を生じ,かえって当事者間の公平を著しく欠く結果を招く危険があることが想定されるから,このような危険を回避するため,余命期間にわたり継続して必要となる介護費用を,現実損害の性格に即して現実の生存期間にわたって定期的に支弁(筆者注:金銭を支払うこと)して賠償する定期金賠償方式を採用することは,合理的である」というものです。
以前は原告が申し出ない限り賠償は一括支払いが原則でしたが、なぜ高裁は、本件については定期金による賠償金支払いを命じたのでしょうか? その理由は次ページで解説します。
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