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 第3回
認知症の夫が事故を起こしたら,妻が損害賠償しなければならないの?
弁護士/司綜合法律事務所パートナー 中込 一洋
「監督義務者」としての責任
  ある男性(当時91歳)は,正当な理由なく線路内に立ち入り,列車と衝突して死亡しました。この事故によって損害を被った鉄道会社は,その男性の妻が「監督義務者」であるとして約700万円の損害賠償を請求しました。
  妻は,昭和20年にその男性と結婚し,昭和57年以降は愛知県D市で2人暮らしをしていました。男性は,平成12年に認知症を発症し,平成14年には要介護1の認定を受けており,平成17年ころから徘徊するようになり,警察に保護されたりしていました。平成19年には要介護4の認定を受けました。建物出入口に人感センサーはありましたが,本件事故当日まで電源は切られたままであり,妻がうたた寝をしている隙に,男性が外出し,事故に遭ったという事情があります。
  名古屋高平成26・4・24金商1445号24頁(以下,本判決といいます)は,男性は精神障害者であり,精神保健福祉法20条により妻が「保護者」の地位にあったことなどから,「現に同居して生活している場合においては,夫婦としての協力扶助義務の履行が法的に期待できないとする特段の事情のない限りは,配偶者の同居義務及び協力扶助義務に基づき,精神障害者となった配偶者に対する監督義務を負うのであって,民法714条1項の監督義務者に該当するものというべきである」とし,妻に損害賠償責任があることを認めました(過失相殺をして,損害額の5割に当たる約350万円の賠償を命じました)。
  ただし,本判決については上告受理申立(民事訴訟法318条)がされていますので,法令の解釈に関する重要な事項を含むと最高裁判所が認めたときは,その事項について最高裁判所の見解が示されることになります。
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