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ある日の午後4時過ぎ頃,57歳の女性が,銀行の支店を訪れました。ATM端末機を操作した後,左肩にショルダーバッグを掛け,右手に2袋,左手に1袋の荷物を持って出入口に向かったところ,足拭きマットに足を載せた途端,マットの端が中央部にずれてバランスを崩し,転倒して左側頭部を出入口ガラスドアにぶつけてしまいました。
このような場合,誰に責任があるのでしょうか。
被害女性は,足拭きマットがすべりやすい状態であったから転倒したのであり銀行に過失がある主張として,不法行為(民法709条)に基づく損害賠償を請求しました。これに対して,銀行は,マットを定期的に交換し,床面及びその周囲は業者により適切に清掃していたから,過失はなく,不法行為責任を負わないと主張しました。
一審判決(東京地判平成25・9・24)は,専ら被害女性の不注意によって発生したものと判断して,銀行の主張を認めました。ところが,その控訴審である東京高判平成26・3・13判タ2225号70頁(以下,本判決といいます)は,一審判決を覆し,銀行に対して損害賠償を命じました。
その理由は,「人が歩行するに際しては,足元の着地面が上から働く力を支え,滑りなどにより体勢のバランスを崩すことがないようにしなければ,転倒による身体損傷等を起こしかねないから,その安全確保のためには着地面の滑り防止が必要とされる」ところ,足拭きマット及び床面の管理を業者に任せて,マットの裏面がやや湿潤し,かつ波打った状態にあることを見過ごしていたことは過失であるという点にあります。
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