Home > 営業スキル > わかると楽しい法律知識

 第9回
精神的な痛みに対する償いは評価が難しい…
慰謝料って被害者が思うより低すぎない?
弁護士/司綜合法律事務所パートナー 中込 一洋
最高裁判所における初の判断
  慰謝料とは,精神的損害に対する賠償,いわば内心の痛みを与えられたことへの償いを意味します。
  誰かの不法行為によって負傷した場合,そのために支出が必要となった治療費・通院交通費や,それにともなって仕事を休んだことによる収入減少(これを休業損害といいます)なども損害賠償の対象となりますが,これに加えて,慰謝料も請求できます(民法709条・710条)。
  治療費・通院交通費・休業損害等は財産的損害とよばれるものであり,診断書・領収書・休業損害証明書等により,実際に生じた損害額を計算できることが多いです。これに対して,慰謝料は,非財産的損害とよばれるものであり,精神的な痛みに対するものであるため,その程度をあれこれ比較し,客観的・数量的に把握することは極めて困難です。傷害及び後遺障害の内容及び程度,治療経過等を考慮し,その原因となった不法行為の態様などを綜合勘案して決めることになりますので,事案ごとに異なることになります。
  そのため,最判昭和38・3・26集民65号241頁が「慰謝料額の認定は原審※1の裁量に属する事実認定の問題」であることが原則であると判示して以来,高裁の判断がいつも尊重されてきました。
  ところが,最判平成6・2・22民集48巻2号441頁(以下,本判決といいます)は,慰謝料額が低すぎるということを理由として,原判決(福岡高判平成1・3・31判タ698号64頁)を破棄しました。これは,最高裁としての初の判断です。
※1 原裁判。現在審理中の裁判の一つ前の段階の裁判のこと。
※ これ以降は会員専用ページです