Home > 営業スキル > わかると楽しい法律知識

 第18回
認知症になっていても,契約は有効なの?
弁護士/司綜合法律事務所パートナー 中込 一洋
意思能力がなければ無効
  一人暮らしをしていたAさん(昭和9年生まれ)は、Yデパートに頻繁に通って,平成18年1月から平成22年9月までの間に婦人服等280点以上を購入しました。売買代金の合計は約1100万円にも達しました。
  Aさんは平成22年8月に「アルツハイマー型認知症」と大学病院で診断され,「約5年前の発症」と推定されています。Aさんがアルツハイマー型認知症と判明後,Yデパートから常識を超える大量購入をしていたことから,Aさんの弟Bと妹たちがYデパートの担当者に,Aさんへ商品の販売をしないよう要請しましたが、聞き入れられませんでした。
  そこで平成23年5月に成年後見開始の審判がなされ,Aさんの弟Bさんが成年後見人に選任されました。BさんはYデパートを経営するY会社を訴え,売買代金の返還を求めました。
  東京地判平成25・4・26判例秘書搭載(以下,本判決といいます)は,「約5年前の発症」という医師による推定だけでは平成18年1月から意思能力がなかったとは認められないとしました。そのうえで,アルツハイマー型認知症は時間の経過と共に知的機能障害が進行するものであって平成22年8月の時点で急激に悪化するとは考えられないとして,平成21年8月以降の取引についてAさんに意思能力がなかったから無効であるとして,Y会社に対し約240万円の返還を命じました。
  意思能力とは,有効に意思表示をする能力のことであり,これがないと契約は締結できません。内田貴『民法T第4版』東京大学出版会103頁では「子供でいえば6〜7歳くらいから意思能力が備わりだす」とされています。年齢的には大人であるとしても,実際には5歳未満の子供と同じような判断力しかないときは,契約は無効ですよ,ということですね。
※ これ以降は会員専用ページです