しかしながら、上記の計算式による役員退職慰労金の適正額とは、税務上「いくらまでなら損金算入が許されるか」という一般的に認識されている上限の金額であり、決して必要準備額のことではありません。提案に際してはこの点をしっかり理解しておきましょう。
企業が1期の事業年度で高額の損金を発生させることができる方法は、役員退職慰労金しかありません。このため四半世紀前のバブルの頃には、自社株対策(高額の役員退職慰労金の支給で自社株の評価を引き下げ、これにより将来発生する相続税負担の緩和等を図る方法)のために上記の適正額を遥かに上回る役員退職慰労金を支給し、所轄の税務署から損金算入を否認されるような事例も数多くありました。
税法上は適正額であるとは言え、上記の計算式で算出される金額は相当な高額になります。例えば35歳で会社を起業して、70歳で勇退予定とします。そして勇退時(70歳)の最終報酬月額は100万円、功績倍率は3倍とした場合の役員退職慰労金の適正額は次のようになります。

≪計算例≫
役員退職慰労金の適正額=100万円×35年×3倍=1億500万円