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第6回
事業承継や財産管理信託にも活用できる「自己信託」
関戸国際税務会計事務所 代表/税理士 関戸隆夫
  自己信託の制度は、近年企業による債権の証券化等の金融取引において利用例がみられるようになりましたが、事業承継や財産管理信託といった民事信託の世界においても利用可能な制度といえます。本稿ではこの自己信託の基本的な仕組みと、特に民事信託において自己信託が利用される場合の留意点について解説することとします。
■  設例
  例えば、事業承継の場面において、オーナー経営者Aが長男Bに株を贈与したいという希望をもっているものの、年齢や経験の問題からすぐに経営は任せられる状況にないケースを想定してみます。この場合、将来の事業承継を確実なものにするために信託を設定し、長男を受益者として経済的価値は移転したいと考えているが、信託設定により自社株式の支配権を第三者である受託者に委ねることは避けたい場合や受託者として信頼できる第三者が見つからない場合もあるでしょう。
  このような場合に「自己信託」を利用することで、自らが委託者兼受託者となる信託を設定し、信託財産である自社株式の株主としての権利は引き続き行使することができます。
  具体的には、次のようになります。
  経営者Aは、公正証書による書面でA自身が保有する自社株式すべてを信託財産とする旨の自己信託(委託者・受託者=A、受益者=長男B)を設定します。これにより、税務上は後継者であるBに対する自社株式の贈与として取り扱われますが、当該株式の所有権はAに帰属したままであることから、Aは受託者として引き続き自社株式の議決権を行使でき、会社の経営権はAに残ります。その後、Aの死亡等による信託終了により、信託されていた自社株式の権利はAからBに移り、Bは議決権を行使(経営権を掌握)できるようになります。
  経営者から後継者に自社株式を移転するにあたって、自社株式の評価額が上昇すると見込まれるような状況では、単純な生前贈与では議決権まで移転することになりますし、自社株式の評価の低いタイミングで議決権を確保したまま株式の経済的な移転を実行できる自己信託は、事前の相続対策として効果的な手法といえるでしょう。
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