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第7回
事業信託の活用事例と基本的な仕組み
関戸国際税務会計事務所 代表/税理士 関戸隆夫
  通常、委託者が信託財産として受託者へ拠出する財産権は、金銭や有価証券、不動産といったものが一般的ですが、「事業信託」は、その名のとおり事業そのものを信託するものです。事業というのは、経営のノウハウや従業員との雇用関係、得意先や仕入れ先との契約などであって、それらを総じて「事業」といいますが、事業信託によってこれらを一つの信託財産として委託者から受託者へ信託することが可能となるものです。従って、事業信託はビジネスの世界において活用が考えられる仕組みといえます。
  事業信託の活用例には、種々のものが考えられますが、ここでは中小企業においても活用の可能性のある資金調達手段としての事業信託を紹介し、基本的な仕組みと税務上の取扱いについて解説することとします。
■  資金調達手段としての事業信託
(1)事例
  P社は、従来から行ってきた伝統的なX事業および比較的歴史が浅い分野であるY事業を営んでいます。X事業はP社にとっての主力事業ですが、ここのところ業績が芳しくなく、P社としては、伝統的なX事業の立て直しを図るための資金調達手段として、止むを得ず、順調に成長してきたY事業の売却を検討しています。
  Y事業に関しては、資金を出したいと考えている企業は複数存在しますが、それらの企業にとってはあくまでも投資対象であり、実際に事業の運営は避けたいという場合、P社としてはどのような方法があるでしょうか。
(2)事業信託による資金調達
  P社は、Y事業を直接第三者へ売却する代わりに、信託会社へY事業に係る事業信託を設定します(下記、「事業信託のスキーム図@」参照)。
<事業信託のスキーム@>
  P社は委託者兼受益者として受益権を取得した後、当該受益権を均等に分割して各投資家へ譲渡し、譲渡対価を得ます。また、受託者である信託会社は、信託財産であるY事業の運営を実際に行うことは困難であるため、P社はY事業の運営委託を受けます。
  この結果、Y事業から生ずる損益は受益者である各投資家へ帰属することとなりますが、P社は、従来と同様にY事業の運営を行いながら、Y事業売却によるX事業の立て直しを図るための資金調達を行うことができます。
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