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第8回
信託の税務と法人課税信託について
関戸国際税務会計事務所 代表/税理士 関戸 隆夫
  信託財産の所有権は受託者にありますが、税法上は原則として受益者に対して課税されます。一方で、受益者が存在しないような場合には、信託の受託者に対して法人税が課税される仕組みがあります。この仕組みを「法人課税信託」といいます。このような信託特有の税務上の取扱いについて解説していきます。
■  はじめに
  これまで取り上げてきた信託取引は、広く一般に浸透しているものではなく、これを扱う金融機関等でさえも税務実務おいては時として判断に迷うケースが少なくありません。ましてや大多数の人々は信託自体に馴染みがなく、信託に係る課税上の取り扱いを完全に理解することは難しいと思われます。
  しかし、信託取引を自分たちの手で行おうとする際には、信託特有の税務上の取扱いを知らなければ、信託の有用性を十分に引き出すことは難しいでしょう。その意味で、信託とその税務は不可分一体のものといえます。個別具体的な難しい税務問題は専門家のサポートを得るとして、当事者においては思わぬ落とし穴に陥らないためにも、最低限の課税のイメージを頭の片隅に持っておくことは有益なことではないでしょうか。
  そこで、今回は、信託課税のアウトラインに触れつつ、特に法人課税信託と呼ばれる取扱いについて解説をすることとします。なお、信託課税の仕組みはやや複雑であり、紙幅の都合上網羅的に解説することは困難ですから、要点のみ触れることといたしますのでご留意ください。
■  信託の税務の基本的な考え方
(1)信託は三者間の取引である
  まず押さえなければならないのは、信託の登場人物は基本的には委託者、受託者、受益者の三者であるということです。そして、信託の本質からすると、受託者の基本的な役割は、信託から利益を得ることでは決してなく、受益者のために財産を預かることです(受託者は、業として信託の受託を行う場合、「信託報酬」を得ていますが、これは信託の本質とは区別して考えるべきでしょう)。しかし、それにもかかわらず、信託制度上は、信託財産の所有権は委託者や受益者ではなく、受託者が有しているという点に注意が必要です。
(2)税法は受益者が信託財産を持っていると考える
  一方で、税務上は、誰が実質的に信託財産を持っているのか、だれが実質的に信託から生ずる利益を得ているのかという点に着目して課税をするということです。
  信託においては、ある財産が委託者の手を離れ、受託者に移転し、受託者は受益者のためにこの財産を管理運用し、最終的には受益者の元へ渡されることになります。受託者は信託財産についての所有権を持ちますが、あくまでも受益者のために預かるわけですから、税金の世界では、一つの割り切りとして、委託者の手を離れた時点で信託財産が受益者の手に渡ったものとして課税することにしているのです。
  このため、税務の大原則としては、信託の受益者に対して課税されることになります。つまり、受託者を無視して、委託者から受益者への贈与とみなされ、また、受託者の名前で稼得した運用益についても受益者のものとみなして所得税・法人税が課税されることになります(次ページの参照)。
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