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第2回
失効・復活の際は、万全な保全対応を!
―新契約締結時と同様の対応・説明で、無用なトラブルを回避―
一般社団法人ソーシャルバリューファーム 代表理事 右田 修三
  保険契約を締結する際には、契約内容の重要事項等についてお客様への説明を徹底しているとしても、契約が失効してしまいそうな時や復活する際にも、お客様に重要事項等を的確に説明していますか。今回、取り上げた判例では、契約の失効・復活の際の営業職員による対応や説明が不十分だと無用なトラブルを引き起こしてしまう可能性があることが読み取れる内容です(内容を理解しやすくするために、判例の趣旨は変えずに事実関係の一部をシンプルに改めています)。
■  失効した契約が復活、それから2年以内に自殺したら?
  事案を簡単に説明すると、以下のとおりです(登場人物はすべて仮名)。
  辰夫は、平成18年11月1日、Y生命保険株式会社(以下、「Y生命」という)との間で辰夫を被保険者、辰夫の妻であるさやかを保険金受取人、払込形態を月払(口座振替)とする生命保険契約(以下、「本件保険契約」という)を締結しました。
契約者 被保険者 保険金受取人
辰夫(夫) 辰夫(夫) さやか(妻)
  本件保険契約には、次の各条項が付加されていました。
付加条項 内   容
失効条項 払込期月の翌月末日までに保険料が支払われない場合には保険契約が効力を失う。
復活条項 失効から3年以内に保険契約の復活を請求できる。
自殺免責条項 責任開始日(復活の場合はそのときの責任開始日)から2年以内の自殺は免責される。
自動振替貸付条項 猶予期間を過ぎでも解約返戻金があるときは、自動的に貸付がなされて保険料に充当され保険契約が存続する。
  本件保険契約は、平成19年7月分の保険料につき残高不足で口座振替されず、同年8月31日の猶予期間を経過しても払い込まれませんでした。解約返戻金が発生していなかったため、本件保険契約は自動振替貸付条項が適用されず失効しました。そして、辰夫による復活の申込み及びY生命の承諾を経て、同年10月31日に滞納保険料が支払われたことで本件保険契約は復活しました。その後、復活から2年足らずの平成21年7月22日、辰夫は自殺により死亡しました。
  さやかは保険金の請求をしましたが、Y生命が自殺免責条項に基づき支払いを拒否したため、さやかは支払いを求めて訴えを提起しました。
■  さやかの主張
  さやかの主張は次のとおりでした。
第1の主張…本件失効条項は「消費者契約法10条」により無効である。
 民法によると、相当の期間を定めて履行の催告をしてその期間内に履行がないときは解除の意思表示をして契約を解除できるところ(民法540条1項・541条)、本件失効条項は催告や意思表示なしで自動的に契約が失効する点で民法よりも保険契約者の権利を制限しているため、消費者契約法10条により無効である。
第2の主張…辰夫が逆選択を行った形跡は認められない以上、復活後の自殺免責条項の適用は権利の濫用である。
 失効を前提にしたとしても、辰夫が本件保険契約を失効させていたのは2カ月程度であり、失効の連絡を受けてすぐに滞納保険料を支払って本件保険契約を復活させ、その後約1年9カ月にわたって保険料を滞納することなく支払ってきた事情の下では、辰夫が逆選択を行った形跡は認められない。したがって、Y生命が自殺免責を主張することは権利の濫用となり許されない。
■  東京地裁判決
  原審の東京地裁※1は、さやかの第1の主張を容れて請求を認容しました。そのため、Y生命は控訴しました。
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