Home
>
業界・商品・コンサル等
> 元引受査定担当者による保険判例解説
第3回
モラルリスク契約を排除せよ!
―保険募集の際にじっくり観察すれば見抜ける!―
一般社団法人ソーシャルバリューファーム 代表理事 右田 修三
生命保険の加入の際には、3つの危険が伴います。「身体上の危険」「環境上の危険」「道徳上の危険(モラルリスク)」です。このうち、「身体上の危険」に関しては、原因や治療法がよく分かっていない難病や事例が少ない奇病等の告知でない限り、そのほとんどは機械で自動的に査定することができます。しかし、「道徳上の危険(モラルリスク)」のように、故意に保険事故を起こして、保険金をだまし取ろうとする人を契約締結前に見抜こうとする場合は、熟練した査定担当者のジャッジの要素が大きく、営業職員の正確かつきめ細かい報告抜きにはできません。
また、モラルリスクにかかわるケースでは、死亡保険金額が比較的高額な場合が多く、契約に至ってしまうと、生命保険に絡む犯罪を誘発する事態に陥りやすく、その保険金は反社会的勢力への資金提供にもなりかねず、生命保険会社にとって収支面のみならず法令遵守の面でも大きなダメージを受けてしまいます。
今回、取り上げる判例を基にして、高額な法人契約の募集の際には、どのような点に注意すべきか、今一度考える契機にしてみてください(登場する人物・社名はすべて仮名です)。
■
必要性、合理的理由の認められない保険契約の集中加入
六笠昇が代表取締役を務めるモラリ興業株式会社(以下、モラリ社と言う)は、平成2年7月から翌年10月にかけて、Y
1
〜Y
4
の保険会社4社(被告・被控訴人)との間で平成2年にモラリ社の取締役となった竹原叶雄(大正6年生まれ)を被保険者とし、モラリ社を保険金受取人として、死亡保険金1億円の生命保険を2件、5,000万円の生命保険を3件締結しました。
保険会社
契約年月
契約者
被保険者
受取人
保険金額
既払保険料
※
Y
1
平成3年8月
モラリ社
竹原叶雄
モラリ社
1億円
812万円
Y
2
平成2年7月
モラリ社
竹原叶雄
モラリ社
5,000万円
311万円
Y
3
平成2年8月
モラリ社
竹原叶雄
モラリ社
1億円
1,442万円
Y
3
平成3年8月
モラリ社
竹原叶雄
モラリ社
5,000万円
429万円
Y
4
平成2年7月
モラリ社
竹原叶雄
モラリ社
5,000万円
420万円
※万円未満を四捨五入。
竹原叶雄を被保険者とする生命保険契約はこれだけではありませんでした。モラリ社のグループ会社などが契約者となるものを含めると契約件数は合計30件にも上りました。そのうち10件(死亡保険金の合計額は5億200万円)は叶雄の息子である幼太を保険金受取人とするものでしたが、残り20件(死亡保険金の合計額は約11億2,500万円)は、モラリ社やグループ会社を保険金受取人とするものでした。
平成4年10月、叶雄はモラリ社グループの保養所であるマンションの一室で死亡し、ガス自殺と認定されました。
そこで、モラリ社は、Y
1
〜Y
4
の保険会社に対し保険金の支払を請求(主意的請求)するとともに、仮に保険契約が無効であったとしても、契約に関する既払保険料の返還請求権を主張(予備的請求)しました。
※ これ以降は会員専用ページです