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厚労省の「介護予防マニュアル」が改訂
■ 介護予防・日常生活支援総合事業を新たに導入
  3月21日、厚生労働省より「介護予防マニュアル」の改訂版が提示された。このマニュアルは主に介護予防を手がける事業者や、予防事業の整備・普及に力を注ぐ市町村、地域包括支援センター等を対象としたものである。だが、現に予防事業の対象者となる高齢の一般住民にとっても、「予防に向けたサービスとしてどんなものが利用できるのか」を体系的に知るうえで一読しておきたい。
  今回の改訂における大きなポイントの一つに、平成24年度から適用される改正介護保険による、新たな仕組みの導入がある。それが、「介護予防・日常生活支援総合事業」である。
  これまで、「要介護認定では自立と判定された(もしくは要介護認定を受けていない)が、今のままでは要介護になるリスクが高い」という人に対し、一部介護保険財源を使った二次予防事業というものが適用されていた。例えば、通所のスタイルで筋力低下を防ぐトレーニングを行なうなどして、要介護になるリスクを高めないプログラムが実施されていた(この他に、前段階となるリスクの低い人も参加し、介護予防の啓発を目的としたプログラムが受けられる一次予防事業もある)。
■ 要支援認定まで対象拡大が可能に
  今改正では、この「予防プログラム」のほか、日常生活における配食や見守り等のサービスによって「生活を整える」という視点からの事業が実施される。それが、「日常生活支援総合事業」である。配食や見守りによって、日常生活における栄養状況や安心を確保する中で、予防プログラムへの参加意欲を高め、その実効性を上げるという狙いがあるわけだ。
  ただし、事業の実効性については、地域の実情や市町村の事業推進力にかかっている。日常生活支援総合事業の提供主体として国が想定しているのは、例えば、ボランティアによる住民主体の活動やNPO法人、シルバー人材センターなど、いわゆるインフォーマルな社会資源だ。そもそも、地域によって資源の整い方には差があり、仮に潜在しているとしても、市町村がそれらをきちんと発見し、事業に結び付ける能力があるかどうかが問われてくる。特に、過疎化が著しい地域などは、資源状況の格差にさらされる可能性がある。
  もう一つ議論となっているのが、今回の介護予防・日常生活支援総合事業は、市町村や地域包括支援センターの判断によって、要支援認定を受けた人も対象とできるという点だ。「要支援認定」を受けた人は介護保険による予防サービスを受けていたが、場合によって、「自立」判定を受けた人と同じサービスを受けるという光景も生じることになる。
  これにより、「必要なサービス量が受けられている」という実感につながるのかどうかは、実際に事業がスタートしないと何とも言えない。ただ、「何のための要支援認定なのか」という声が当事者から出てくる可能性がある。初年度から新しい仕組みがきちんと離陸するのかどうか、行政の住民に対する説明能力を含め総合的な力量が問われている。
詳細:厚生労働省ホームページ「介護予防マニュアル(改訂版:平成24年3月)について」
http://www.mhlw.go.jp/topics/2009/05/tp0501-1.html
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2012.04.02
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