>  今週のトピックス >  No.2422
定期巡回・随時対応型という新サービス
● 「1ヵ月あたりいくら」でヘルパー・看護師が巡回訪問
  新たな介護保険制度が、今年4月より施行されている。今改正の目玉の一つとなっているのが、「定期巡回・随時対応型訪問介護看護」という新サービスだ。ホームヘルパーあるいは訪問看護師が、契約している利用者宅を巡回し、食事や排せつ、入浴といった日常生活上の介護や家事援助(生活援助)、さらには看護師でなければできない療養ケア(服薬管理や褥そう(じょくそう・床ずれのこと)の処置等)などのサービスを提供する。加えて、利用者側からのオンコール(連絡)で、随時の訪問も受けられるようになっている。
  これまでの訪問介護、訪問看護などと大きく違う点は、基本利用料が「1ヶ月あたりいくら」という定額制になったことだ。同じく一部定額制が導入されているサービスとして、夜間対応型訪問介護という既存サービスもあるが、夜間限定であることや看護師訪問が想定されていないこと、定額制の報酬が低いために「訪問1回あたりいくら」という回数制の利用料算定を選択する事業者が多かったという違いを見ることができる。
● 在宅でも重度者の介護が可能に?!
  新サービスの定額報酬を見ると、介護と看護が一体的に運営・提供されている場合、要介護1で月9,270単位、最も重い要介護5で月30,450単位となっている。仮に1単位=10円とした場合(地域等によって変動あり)、1割の利用者負担は前者で9,270円、後者で30,450円になる。1回30分以上1時間未満の訪問介護(身体介護)の報酬が402単位なので、要介護5の場合、月あたり75回(30,450÷402)訪問できる計算だ。
  軽度かつ週あたりの訪問ニーズが3〜4回という利用者にとっては割高になる可能性もあるが、重度者で随時の対応を含めた頻回な訪問が必要だったり、看護ニーズも高い利用者にとっては使い勝手がよくなる可能性がある。つまり、このサービスは在宅における重度の要介護者を想定したものであり、特別養護老人ホームの待機者が1施設あたり何百人もいる現状で、地域の受け皿確保を狙ったものといえる。
  事業者側の参入メリットもある。例えば、サービス付き高齢者向け住宅(原則賃貸で、高齢者を対象に安否確認等のサービスがついた自治体登録制の集合住宅。平成23年10月より制度化)の一角に訪問・通所などのサービス事業所を設置したとする。そこで利用者の多くが入居者であった場合、一般の訪問・通所介護では(移動の手間がかからない分)報酬は減算となる。ところが、この新サービスに限っては、「入居者以外にも提供するよう努める」という努力義務にとどまっている。
  高齢者が入居できる建物を用意し、そこで主に入居者を対象とした新サービス運営を行えば、事業者側にとっての経営効率は高まる。新規参入をうながす条件は整っているわけだ。ただし、事業者のすそ野が広がり、ある意味で「利用者囲い込み」ができるとなれば、当然「サービスの質」が問われる可能性も高まる。利用者にとっては、「住環境」も含めた選択の目が求められるといえる。
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2012.05.10
前のページにもどる
ページトップへ