> 今週のトピックス > No.2432 |
「子ども手当」は子育て支援に効果的だったのか? | |||||||||||||
● 大学からの警鐘
子ども手当は、多くの世帯で実質的に子育て支援、充実につながったとは受けとめられていない――。東北大学大学院経済学研究科の吉田浩教授は、子ども手当制度が平成23年度末に終了することから、同制度が子育てに及ぼした最終的な影響を検証するために、受給対象となった子どものいる全国の世帯を対象にインターネット上でアンケート調査を実施(有効回答数は423)。今年3月30日に調査結果を発表している。
その調査結果から以下のような興味深い傾向が読み取れた。
● 児童手当から子ども手当、そして再び児童手当へ
「子ども手当」以前には、「児童手当」制度が存在した。平成に入ってからの児童手当をざっと振り返ると、対象者は義務教育就学前から、平成3年改正で「3歳に満たない児童」へ引き下げられたが、支給額は第1子、第2子ともに月額5,000円、第3子は10,000円へと倍増された(支給対象年齢についてはその後何度も変更されているがここでは割愛)。
当時は所得制限も強化されており、高所得層は恩恵を受けていなかった。しかし「扶養控除」の適用によって、最も所得税率の高い層に大きな恩恵がもたらされ、高所得層への経済的厚遇という不公平な状況が生まれていた。また、児童手当の額は他国の同様の制度に比べても低く、経済効果が不十分という指摘もあった。 平成22年からは子ども手当が実施され、それと同時に進められた「扶養控除の見直し」政策によって、これらの課題は解消に向かうはずであった。 しかし、東日本大震災の復興財源の確保を優先しなければならないことや、同手当の費用の一部を地方公共団体に負担してもらうことへの反発が起こり、政府は同手当の満額支給や所得制限の撤廃など当初の目的を断念せざるを得なくなった。そして野党との折り合いを求めて、結局は従来の児童手当法を改正し、平成24年4月からふたたび児童手当を実施することとなった。 ● 子育て支援として取り組むべき本当の課題は何か?
私見になるが、前述の吉田浩教授の調査結果――子ども手当が実際は多くの世帯で貯蓄にまわり、「実質的に子育て支援、充実につながったとは受けとめられていない」ということから、児童手当から子ども手当への制度改革は国民にとって必要切実なものではなかったのではないか。
一方で政府に望む子育て支援政策としては、「扶養控除や(子どもの)医療費控除などの税制上の支援策の充実」や「子ども手当などの金銭的給付の充実」が望まれている一方で、依然として保育施設等への支援対応が不十分であることへの不満が解消されていないことが結果から読み取れる。累進課税制度の中で、所得控除の効果を理解することなく、目的も曖昧なまま受給する構図をみて、政治・経済・社会の基本的な政策決定・行動システムに何か異常をきたしているのではないかと不安になった。 少子高齢化が加速度的に進んでいる。経済成長や社会保障に関する問題解決のベースは常に「人」のはずである。誰が、いつ、どのようにして実効性のある本物の制度構築に取り組むことができるのか。「自分の枠」の中だけで「守り」に入る習性、成長力を養えず、繰り返し空回りする「失われた20年」…。社会問題ともいえるこの問題を解決することが先決なのではないか。 この制度の存在を知って、その意味や税制度等との関係にも多少明るくなったが、今後「失われた30年」に発展しないよう努力していくことの重要性は痛切に感じる。 参照:東北大学大学院経済学研究科 吉田浩研究室「『子ども手当』制度は本当に効果があったのか」 http://www.tohoku.ac.jp/japanese/newimg/pressimg/tohokuuniv-press20120330.pdf |
2012.05.28 |
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