>  今週のトピックス >  No.2434
介護職による「たんの吸引」等が解禁に
● 在宅介護へのシフトの一環として
  病院の入院機能が急性期に特化され、慢性期の患者を受け入れる療養病床も徐々に減らされる傾向にある。介護保険の分野では、医師・看護師の配置が厚い老人保健施設が、「入所者をできるだけ早く自宅に戻す」ことにインセンティブを働かせる改定がなされた。
  その代わりに、在宅診療や訪問看護に対する診療・介護報酬を手厚くし、自宅においても「重度者の療養を支援する」という方向性が強まっている。しかし、地域によっては在宅診療医や訪問看護師の不足が深刻で、同居する家族介護者の高齢化も進んでいる。そうした中、例えば、たんの吸引や経管栄養※1の管理などの一定の医行為を誰が担うのか。国が進めようとしている「病院から在宅へ」の流れにおいて、大きな課題となっていた。
  ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの難病患者の場合、一定時間内に確実な「たん吸引」などを行なわなければ、命にかかわることもある。こうしたケースでは、医師や看護師以外、つまり、ホームヘルパーなどの介護職が一定の研修を積めば、「たんの吸引」等を可能としてきた経緯がある。
  しかしながら、この「介護職による医行為」は、これまで法律上正式には認められた行為ではなかった。命にかかわる状況を回避するため、厚労省の通知によって特別に「法律違反には問わない」という位置づけだった。これを法律用語では、「実質的違法性阻却」という。いずれにしても、「利用者の命を救う」という使命を介護職に担わせるには、あまりにもぜい弱な仕組みであったといえる。
● 研修等一定条件を満たすことで可能に
  こうした状況を受け、国は昨年、「社会福祉士および介護福祉士法」の一部を改正。今年4月から、一定条件をクリアすれば、介護職でも「たんの吸引」や「経管栄養の管理」が法律上認められることになった。
  介護職が「たんの吸引」等を行なおうとする場合、都道府県に登録された研修機関で、50時間程度の講義や演習、さらに実地研修を受ける(特定の利用者のみを対象に医行為を行なう場合は、研修時間は少なくなる)。そのうえで、都道府県から認定証を受け、「たんの吸引等を行なっている旨」を届け出た登録事業者に所属することが必要となる。
  ただし、これだけで「たんの吸引」等がフリーに行なえるわけではない。実際に行なうには、医師の指示書や看護師との連携、業務手順書や計画書の作成などが必要になる。気になるのは、医師や看護師側は、指示や連携に際して報酬面で評価されるが、当の介護職側には特段の評価が見られないことだ。あえて言えば、介護職が勤務する事業者・施設において「高い報酬が受け取れる加算」の重度者要件(重度の利用者の割合など)に「たんの吸引等が必要な者」が加わったことである。
  果たして、これで在宅における重度者の安心は確保されるのか。かねてから低賃金が問題となっている介護職の社会的評価とのバランスなど、注視したいポイントはまだまだ多い。
※1   食事を口から取れない患者に対して、鼻や腹部に形成した瘻孔(ろうこう・チューブの挿入部)からチューブを使って栄養補給を行なうこと。
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2012.05.31
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