>  今週のトピックス >  No.2446
介護職員の処遇改善策と利用者の関係
● 離職率を下げるために職員の処遇を改善
  介護職員の離職率が高いという傾向は、一般でもよく話題にのぼる。実際の数字を見ると、訪問と施設を合わせた1年間の離職率は17.8%で(財団法人 介護労働安定センター「平成22年度 介護労働実態調査結果」より)、これは全産業平均の14.5%に比べて3ポイントあまり高い。だが、利用者への影響を考えた場合、より問題なのは以下の数字だ。
  1年間の離職者のうち、就業1年未満の者の割合は43.0%と半分近い。3年未満となると全体の77.6%にもおよぶ。つまり、3年たつと現場職員の4分の3は入れ替わる計算だ。これでは若手職員の現場スキルは蓄積せず、利用者の介護にも影響がおよびかねない。
  なぜここまで離職率が高いのかと言えば、よく指摘されるのが「重労働の割に給与が低い」点だ。実際、介護職員の月あたりの平均賃金は20万円に満たない。ここには一定のキャリアを積んだ職員も含まれるので、若手の場合、フルタイムのほか夜勤をこなしても、月16〜17万円というケースも少なくない。
  こうした状況を改善すべく、国は2009年に、職員のキャリアパス策定など一定要件を満たした事業所・施設に対し、職員一人あたり月1万5,000円の給与上乗せを行なうための交付金(介護職員処遇改善交付金)を支給した。だが、介護報酬(障害福祉サービス含む)とは別建ての交付金であるとともに、12年3月までという期限が切られていた。そのため、基本給アップにはなかなか反映されず、一時金の支給にとどまりがちだった。
  この課題を解消すべく、12年4月からは交付金分の上乗せが介護報酬に組み込まれた。これを「介護職員処遇改善加算」といい、事業所・施設が算定する報酬にサービスごとの加算率をかけて算出する仕組みになっている。
● 職員の給与アップのしわ寄せは利用者に!?
  ここで注意しなければならないのは、介護保険における報酬の場合、原則として利用者負担が1割発生するということだ。つまり、処遇改善加算についても、その1割は利用者が負担することになる。月当たり多くても数百円という上乗せなので、微々たるものと言えなくはないが、それでも「職員の給与を上げるために無条件で利用者負担が増やされる」ことに納得できるかどうかの問題は残る。
  今回の加算が提案されたとき、「事業者や施設が内部留保を職員給与に回していないことが問題」という議論があった。恐らく利用者の中にも、「職員の給与が低いのは経営側の問題であり、そのしわ寄せを利用者に回すことに納得できない」という声も出るだろう。
  今回の加算は、その上乗せによって支給限度額をオーバーしても、利用者の10割負担にはならない。だが、加算率をかける前の本体がすでに限度額をオーバーした場合、加算は10割負担になる。つまり、数百円の負担が数千円に跳ね上がるわけだ。社会保障財政がひっ迫する中、支給限度額をどうするかという議論も上がっている。将来的に限度額引き下げとなる場面が生じた場合、この処遇改善加算は大変な議論になる可能性もある。
  ※支給限度額……介護保険では、在宅介護の場合、要介護に応じて保険からの月あたりの給付額上限が決められている。これを(区分)支給限度額という。利用するサービス費用が限度額をオーバーした場合、その部分は保険給付の対象とならず、利用者は残りの9割も全額自己負担しなければならない。
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2012.06.21
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