>  今週のトピックス >  No.2458
「家族介護者のレスパイト支援」は進んでいるか?
● 介護にあたる家族の疲弊が深刻化
  平成24年度の高齢社会白書が発表となったが、その中に「要介護者等から見た主な介護者の続柄」という調査がある。それによれば、同居家族が主な介護者となっているケースは64.1%で、年齢層で見ると70歳以上の割合は男性で40.2%、女性で29.7%にのぼる。同居家族の中でも「主な介護者が配偶者」という割合も約4分の1に達しており、高齢者夫婦のみの世帯で、高齢の配偶者が高齢の要介護者を介護するという構図が見えてくる。
  また、こちらはやや古いデータだが、家族の介護・看護を理由に離職・転職した人の数は、平成18年10月からの1年間で14万4800人にのぼり、前年比で4万500人の急増となった。介護の対象者の要介護度が4、5という重いレベルになると介護時間が「ほぼ終日」となる割合がほぼ5割に達している。介護休業制度もたびたび改正されているが、93日の休業制度、年10日の休暇制度がどこまで実効性を担保できるのかは、難しい面もある。
● レスパイト支援の確保と在宅介護促進は両立なるか
  こうした中、平成24年4月から施行されている新たな介護保険制度において、国は「家族介護者のレスパイト支援※1の強化」を改正ポイントの一つに挙げている。具体的には、通所介護(デイサービス)において利用の長時間化を図ることを狙った報酬改定がなされたこと。もう一つは、短期入所(ショートステイ)の資源拡充を図る仕組みが導入されたことだ。
  前者の通所介護においては、まず基本報酬の時間区分が変更となっている。例えば、それまで所要時間6時間以上8時間未満だった時間区分が、@5時間以上7時間未満、A7時間以上9時間未満という区分に再編された(他の時間区分でも同様の再編が行われている)。そのうえで、Aの長時間化を選んだ事業所の介護報酬がアップする仕組みが導入された。加えて、「利用の延長」についても、1日12時間まで介護給付が行われることになった。
  一方、後者の短期入所については、緊急時に受け入れるベッド数を一定以上確保したり、受け入れのための体制を強化している施設に対する報酬上の評価を強化した。主たる介護者も高齢化する中では、「介護者自身が体調を崩して入院する」などというケースも増えており、そうした緊急時でも対応できる体制づくりを進めようというわけだ。また、有料老人ホーム(特定施設)の空室の短期利用も介護給付の対象としたり、認知症グループホームにおける「短期利用」の事業要件を緩和するなどの施策も見られる。
  ただし、国は同時に「施設から在宅へ」という介護施策の方向性を強めている。「在宅での重度者を支える」という負担が急速に高まりつつある中で、どこまでレスパイト支援を狙った施策が効果を上げることができるのか。むしろ現状を見ると、介護保険外の自主事業が受け皿になっている感も強い。例えば、「お泊りデイ」※2などについて、一部自治体が独自に基準を設定したり、事業助成を行うケースも増えている。施策と現実とのギャップが埋められるのか、正念場が近づいている。
※1  レスパイト支援…高齢者、障害者などを在宅でケアしている家族を癒やすため、一時的にケアを代替し、リフレッシュを図ってもらうなどの支援のこと。
※2 お泊りデイ…介護保険の通所サービス事業者が、その設備を活用して「そのままお泊り」を受け入れるというもの。お泊りに関しては介護保険外の自主事業となるが、近年サービス・環境両面の質が問題視されており、自治体独自の基準づくりなども進んでいる。
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2012.07.12
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