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介護保険施設の「淘汰」が進む!?
● 施設から在宅復帰を促す報酬改定
  平成24年度の介護報酬の改定において、厳しい状況を強いられているのは、在宅にかかるサービスだけではない。利用者側にしてみれば、重度化した場合の「受け皿」という期待が高い介護保険施設においても、経営のあり方を問われる状況に追い込まれている。
  まず、病院等から在宅復帰に向かう前の「中間施設」的な位置づけがなされてきた、介護老人保健施設(以下、老健)。こちらは、利用者をいかにスムーズに在宅に戻すかという努力がますます強いられる環境におかれている。
  今回の改定では、この老健に「在宅(復帰)強化型」と呼ばれる報酬上の種別が誕生した。これが適用された場合、施設に入る介護報酬は最大で4.5%程度アップする。だが、適用されるための要件は極めてハードルが高い。理学療法士等のリハビリ専門職を手厚く配置するだけでなく、入所者の平均在所日数が約10ヶ月以内(30.4÷平均在所日数≧0.1)という要件や、直近6ヶ月の退所者のうち在宅復帰(入院や他の老健に移るケースはカウントされない)が半分以上という要件が課せられている。
  さらにきついのは、直近3ヶ月における要介護4、5の利用者が35%以上という要件もプラスされたことだ。重度者を受け入れつつ、在宅復帰を早めることが求められているわけで、一朝一夕でクリアできる条件ではない。だが、この新種別を選択しない場合、介護報酬は逆に2〜3%ダウンすることになる。「無理だから」と手をこまねいていれば、経営状況はどんどん悪化していく。
● 在宅復帰や重度化対応など高度なノウハウが構築できなければ経営危機に
  同様のことは、「終の住処」と位置づけられる特別養護老人ホーム(以下、特養)でも指摘できる。こちらの場合、要介護度が低い人ほど介護報酬のダウンがきつい。やはり、重度者受け入れを積極的に行なわなくては、厳しい減収となる。「要介護度が高い=医療ニーズが高い」とは限らないが、転倒等の事故リスクも高まることを考えれば、すぐに入院となってしまう状況も増える可能性がある。
  問題なのは、特養の場合、利用者の入院期間の見込みが一定以下であれば、退院後のベッドをそのまま確保しておかなければならない点だ。利用者側からすればありがたいことだが、施設側にしてみればベッド稼働率は下がり、やはり経営的なダメージを負う。
  このように、老健も特養も、在宅復帰や重度化対応に対する高度なノウハウを築くことが求められている。それができなければ、早期に経営危機が訪れるという点で改革スピードとの勝負が強いられるわけだ。利用者側から見た場合、ケアの質的向上が期待できる一方、仮に施設が淘汰されれば「受け皿」を失うことになりかねない。老健がアフターフォローを十分に整えず在宅復帰策に躍起になれば、家族介護者への負担も高まるだろう。
  新たな「受け皿」を地域の中でどこに求めるか。真の安心が確保できるだけの、在宅介護のインフラの見直しが求められている。
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2012.08.02
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