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民主税調、平成25年度税制改正の基本方針を公表
● 焦点は所得税、相続税・贈与税の見直し
  民主党の税制調査会が公表した「平成25年度税制改正にかかる基本方針」によると、所得税については、格差社会への対応の観点から、平成24年度税制改正大綱、税制抜本改革法第7条及び附則第20条に従い、課税所得5,000万円超を45%に引き上げるとした税制抜本改革法の政府・与党原案や法案の国会における議論も踏まえつつ、最高税率の引上げなど、累進性の強化等を行って所得再分配機能を回復する。税制抜本改革法附則第20条では、所得税について平成24年度中に必要な法制上の措置を講ずることとされている。
  相続税・贈与税については、格差の固定化の観点から、バブル後の地価の大幅下落等に対応して相続税の基礎控除の水準を引き下げ、最高税率の引上げ等を行うとともに、高齢者の保有資産の現役世代への早期移転による需要喚起等を図る観点から、贈与税の税率構造の緩和等を行う等とした税制抜本改革法の政府・与党原案や法案の国会審議における議論も踏まえつつ、課税ベース、税率構造等の見直しを行う。
  税制抜本改革法では第7条において、消費税率引上げ時の低所得層対策として、給付付き税額控除の導入や複数税率(軽減税率)の導入、簡素な給付措置の実施などのほか、消費税率の引上げで大きな影響を受ける住宅や自動車の取得に対する緩和策が検討課題として示されており、平成25年度税制改正の議論においては、低所得層への支援や住宅取得にかかる税制、自動車取得税・自動車重量税の見直しなどが焦点の一つとなる。
● 「消費税の逆進性対策にかかる論点整理」も公表
  消費増税法が成立したが、消費税率引上げ時の課題である逆進性対策の具体案はこれからの議論に委ねられている。民主党が取りまとめた「消費税の逆進性対策にかかる論点整理」によると、税額控除を基本として、控除額が所得税額を上回る場合には、控除しきれない額を現金で支給する「給付付き税額控除」は、相対的に低所得者に有利な制度であり、逆進性対策としても有効に機能し得る、また、裁量の余地が小さく、再分配重点化の側面が強く、複数税率が抱えるような問題を生じにくいと評価している。ただし、所得の把握が必要なことなどから、マイナンバー制度(社会保障・税番号制度)の本格稼働・定着が必須であるとした。
  制度導入に伴う論点としては、(1)利子所得、事業所得、預金残高等については、マイナンバー導入後であっても必ずしも把握できないことから、所得等の総合把握に向けた検討が必要、(2)制度を導入する際には、簡素な給付措置との給付時期との間隔が大幅なものとならないよう、切換えのタイミング等について、十分に配慮すべき、(3)簡素な給付措置は、消費税率8%引上げと時期を同じくして開始すべきことを掲げている。
● 「複数税率」の導入には否定的
  一方、食料品等一定の品目を対象に税率を軽減する制度である「複数税率」は、一見、逆進性対策として単純で効果的に感じられるため、一般的な理解が得られやすいと思われるが、仮に食料品を軽減対象にしたとしても、かえって高額所得者ほど負担軽減額が大きくなり、逆進性対策としての効果には議論の余地がある、として疑問を呈している。複数税率は自民・公明両党の要望を受け入れ検討項目としたが、民主党はやはり否定的だ。
  さらに、制度設計上の論点として、(1)軽減税率の適用範囲の合理的な設定が課題となる、(2)インボイスの導入が必要となり、事業者の事務負担の増加や、インボイスを発行できない免税事業者が取引から排除される懸念にどう対処するか、(3)例えば、食料品を軽減対象とした場合、税率5%であれば3兆円程度の減収が生ずるなど、課税ベースが侵食されるため、標準税率の引上げ幅を大きくする必要がある、などの問題点を指摘している。
消費税におけるインボイス制度とは、課税事業者が発行するインボイスに記載された税額のみを控除することができる方式のこと。
  
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト
1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に「住基ネットとプライバシー問題」(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍「生命保険法人契約を考える」
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.html
  
2012.09.10
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