>  今週のトピックス >  No.2494
介護人材の「採用手控え」が及ぼす影響
● 介護従事者の人材確保進まず、採用手控えの追い討ちも
  財団法人介護労働安定センターが「介護労働実態調査」を毎年実施している。その平成23年度実施分(調査期日は平成23年10月1日)の結果が公表された。
  高齢者介護の現場においては、恒常的に「人手不足」が叫ばれており、その背景となる離職率の高さは社会問題としてもクローズアップされている。この点について最新の調査結果を見ると、離職率自体は16.1%と対前年比で1.7ポイントの改善が見られる。改善が見られたのは2年ぶりのことだ。
  一方、介護人材全体の増加率の推移を見ると、こちらは「8.0%→4.9%」と大きく低下。年間の要介護高齢者の増加率が約5%であることを考えれば、人材確保のスピードは数字的にはぎりぎりのラインと言える。ただし、個々の要介護者の重度化も進んでいることを加味すれば、ケアの質を維持するだけの人材確保は厳しくなっていることが想定される。
  実際、従事者の過不足状況を尋ねた項目では、不足感が53.1%。前々年の46.8%、前年の50.3%から右肩上がりの状況が続く。人手不足感が強まる中で人材確保が進んでいない背景の一つとして、調査時期が平成24年度の介護報酬改定前である点も指摘できる。新報酬体系が少しずつ見えてきたタイミングで「大幅なアップは見込めない」という空気が業界全体をおおい、具体的な報酬案が示されるまで採用を手控えた可能性があるわけだ。
● 恒常的な処遇改善がなされない限り、人材は根付かず
  問題なのは、人手不足感が高まる介護現場を誰が担っているかである。離職率の詳細な状況を見ると、「(入職後)1年未満の者」の割合が減少する一方で、「1年以上3年未満の者」の割合は微増、つまり、それ以上のキャリアがある人材の離職には歯止めがかかっていないことが見てとれる。まだ慣れない新人が、利用者の重度化が進む現場を何とか支えているというのが実態といえる。
  そもそも一定以上のキャリアを積んだ人材が根付かないというのは、介護現場における構造的な問題といえる。社会保険料と公費で成り立っている介護報酬においては、そもそも右肩上がりの賃金構造をとることは難しい。その結果、大幅な昇給がなかなか望めない中、相応のキャリアを積んだ人材は、例えば富裕層から介護保険外の利用料を多く取ることのできる大手事業者などに転職したりする。
  国は介護職員の処遇改善を図るべく、平成23年度末まで介護職員処遇改善交付金を実施してきた。しかし、時限的措置であるゆえに、結局は一時金に回ってしまい、恒常的な昇給を実現することは困難だった。平成24年度より交付金分を介護報酬に組み込み、その加算分が確実に処遇改善に振り向けられるよう、処遇改善計画作成などの要件が強化された。ただし、交付金分を除けば実質マイナス改定になったため、経営体力に乏しい小規模事業者などは算定が難しくなっている。
  以上の点から、事業者の規模や顧客の経済力によって、人材の質が二極化されやすくなっている。利用者にとって事業者を見極める目がますます求められているといえる。
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2012.09.13
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