>  今週のトピックス >  No.2510
国が「特別重点」と定める今後の医療施策
● 創薬研究開発では、8つの重点領域を提示
  平成25年度予算にかかる各省庁からの概算要求が出揃った。事前に政府より示された概算要求基準においては、今年7月に閣議決定された「日本再生戦略」に基づいて予算の重点配分を行なう項目が示されている。中でもグリーン(エネルギー・環境関連施策)、ライフ(医療・福祉関連施策)、農林漁業については、再生政略の3本柱として、関連要求項目が特別重点枠と位置づけられている。
  この3本柱のうち、ライフについては厚労省の独壇場とも言える。中でも「医療イノベーション5か年戦略の着実な推進」として411億円の要求額が目立っている。
  医療イノベーション5か年戦略は今年6月に策定されたもので、わが国の医療関連市場の活性化による経済成長を実現し、積極的に海外市場へ展開することを視野に入れたものだ。この予算面からの支援として、革新的医薬品・医療機器の創出に341億円、世界最先端の医療の実現に69億円が、要求額の内訳として示されている。
  特に創薬研究開発については、具体的に8つの重点領域が示されている。それが、@がん、A難病・希少疾病、B肝炎、C感染症、D糖尿病、E脳心血管系疾患、F精神・神経疾患、G小児の先天性疾患などである。これらの領域についての医師主導治験などを推し進めるとともに、新たな医薬品等についての審査の迅速化に向けた取り組みも課題としている。
  患者側としては、がんや難病にかかる創薬研究開発が進むのはもちろん、医薬品等の審査の迅速化に対する期待は高い。今回の概算要求では、臨床研究中核病院を新たに7カ所整備し、難病などの医師主導治験とネットワーク構築を重点的に推進するという項目も見られる。すでに厚労省は文科省との連携により、平成24年度からの「臨床研究・治験活性化5か年計画2012」を策定しており、こちらの5か年計画との有機的な連携も期待される。
● 日本医師会も創薬支援、治験実施体制の整備促進に賛成
  ただし、ここまではあくまで来年度予算の概算要求におけるビジョンにとどまる。こうした予算措置の実効性を図る場合、常々課題となるのは現場との温度差だ。
  例えば、医師主導治験を進めている医師側のとらえ方はどうなっているのか。今回の概算要求に先立ち、日本医師会は、特別終点枠のベースとなっている「日本再生戦略」に対し、8月29日時点での見解をまとめている。
  そこでは、「日本の医薬品・医療機器産業は、公的医療保険を支える重要な産業と認識している」としたうえで、創薬支援、治験実施体制の整備促進に賛成との立場を示している。もともと日本医師会は、平成15年より治験促進センターにおいて医師主導治験を促進してきたという実績を常々強調してきた。つまり、この実績をもって、今後の審査迅速化に向けた制度見直し等についても、発言力を強めていきたいという意向がある。
  一方で、TPP参加交渉をめぐる公的薬価制度の問題など、政府と医師会とのあつれきの火種も少なくない。国の思惑通りの医療関連市場の推進が実現されるのか。今後の予算編成に向けた動きが注目される。
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2012.10.11
前のページにもどる
ページトップへ