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10月からの年金減額、ひとまず先送りに
● 現在の受給者は、年金をもらい過ぎ?
  公的年金額は、現役世代の平均賃金や世の中の物価に応じて改定されます。それらが上昇すれば年金も増額されますし、下降すれば年金も減額される仕組みです。
  ご承知の方も多いかと思いますが、今年の4月より年金が0.3%減額されました。これは、昨年の物価が0.3%下がったことによります。このように、物価等に応じて金額改定されるのが公的年金の大きな特徴です。
  しかし、この通りの運営が行われなかった時期があります。1999年より3年間です。当時もデフレでしたので、3年間合計で1.7%物価は下がりました。ところが当時の政治的な配慮で年金の引き下げは行われなかったのです。年金受給者への配慮と言った方が分かりやすいかもしれません。そのため本来の水準より1.7%高い額の年金が払われ続けることになりました。
  もっとも、この分についてはその後、物価等が上昇した際に年金額を引き上げないことで相殺して、元の水準に戻す考えでした。つまり1.7%分までは物価等が上昇したとしても年金額を据え置くということです。
  しかしながら、思惑通りに事は運びませんでした。インフレになるどころかその後もデフレは続き、逆にその差は2.5%まで広がり、今に至ってしまったのです。本来の水準より2.5%高い金額が現状の年金ということです。
  これが「今の年金はもらい過ぎ」と言われる所以です。年金を受給されている方には、このような実感はないと思いますが…。
● 年金がさらに減る?
  さすがに、年金財政健全のためにもこのまま放置しておくわけにはいかなくなり、2.5%の差を解消するための法案が今年の2月に国会に提出されました。年金額を引き下げる法案です(国民年金法等の一部を改正する法律等の一部を改正する法律案)。
  ただし、一気に2.5%減額するとあまりにも影響が大きいため、3回に分けて下げることとなっていました。具体的には、今年0.9%→来年0.8%→再来年0.8%という計画です。
  そして第1回目にあたる今年の引下げ時期が10月だったのです。法案が通れば10月より0.9%減額される予定でした。
  4月に続き10月も減るとなれば、年2回の減額となるだけに、受給者への影響もきわめて大きくかなり注目されていました。
● とりあえずは先送りに
  皆さんもご存知のとおり、この法案は先の国会(第180国会(通常国会))では通りませんでした。
  元々高齢者に厳しい法案だっただけに審議自体消極的な状況が続き、最終的には国会混乱のあおりを受け流れてしまった形です。そのため、10月から年金が減ることは無くなりました。年金受給者の方にすれば一安心と言えそうです。
  一方で、高い水準のまま年金が払われ続けているのは事実です。ツケも先送りされたわけですから、年金財政健全化の観点からすると由々しき事態とも言えます。
  どちらに転んでも我々にとって影響の大きい制度改正です。今後の進展に注目が必要となりそうです。
  
沖倉 功能 (おきくら・かつよし)
有限会社ピージェイハーベスト代表取締役
社会保険労務士・CFP®
年金を専門業務とし、セミナーや研修を通して多くの方に年金を伝えている。年間講師回数は約150回。単に制度の説明だけではなく、年金を知った上での対策の考え方なども客観的に解説している。
年金知識を身に付けたい方のための『実務で使える!年金基礎講座』や、年金講師に取り組みたい方のための『年金講師養成講座』も自主開催している。
ホームページ: http://www.pjh.co.jp/
  
  
2012.10.15
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