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高年齢者雇用安定法が改正、一律再雇用へ
  高年齢者雇用に関しては、10月に大手飲料メーカーのサントリー社が65歳定年制採用を発表するなど、一部の企業の取組が注目されているが、法律面では平成24年8月29日に「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律」(高年齢者雇用安定法)の改正が成立し、平成25年4月1日から施行となる。65歳定年制を義務付ける改正ではないが、経営者にとっては重要な改正事項であるので、ここで確認しておこう。
● 高年齢者雇用安定法の現状
  現在、定年を定める場合には60歳を下回ることができない。また、65歳未満の定年を定めている事業主に対して、65歳までの雇用を確保するため、次のいずれかの高年齢者雇用確保措置を制度として導入することが、義務付けられている。
   定年年齢を65歳以上に引き上げる
労働者が65歳まで働くことができる継続雇用制度を導入する
定年の定めを廃止する
  このうち継続雇用制度については労働条件の変更が容易なことから、多くの企業が定年年齢に達した社員を一度退職させ、再び雇用する「再雇用制度」を採用している。この制度は労使協定等により基準(以下「再雇用基準」)を定めた場合は、基準に満たない者を再雇用しなくてもよいものである。
● 再雇用を拒否できる基準は見直しを迫られる
  ところが現行の再雇用制度のままでは、厚生年金(報酬比例部分)の受給開始年齢の引上げにより、平成25年度には、60歳定年以降、雇用が継続されずまた年金も支給されない無収入期間が生じる者が出てくることになった。
  そこで今回の改正では、収入に空白期間が生じないように企業が再雇用基準に適合した労働者だけを再雇用し、基準に適合しない労働者の再雇用を拒否できる仕組みが廃止された。原則として企業は平成25年4月1日から継続雇用の対象となる労働者が希望すれば、その全員を65歳まで再雇用しなければならなくなった。
● 経過措置は残る
  激変を緩和する策として、現行の規定に基づき再雇用基準を定めていた企業については、現行の基準を引き続き利用できる12年間の経過措置が設けられた。
  具体的には、厚生年金の受給開始年齢に達した以降の者は、現行の再雇用基準のままでよく希望者全員を再雇用する必要はないが、老齢厚生年金の支給開始年齢に達する前の者に対しては、希望者全員を再雇用しなければならないというものである。
  厚生年金の支給開始年齢は、平成25年4月に61歳となり、以降3年ごとに1歳ずつ引き上げられ、平成37年4月に65歳となる。この年金受給開始年齢の引上げと希望者全員再雇用のスケジュールが一致しており、経過措置が終了すると、原則通り希望者の全員再雇用が義務付けられる。
  上の図のように、平成25年4月1日以降に60歳の定年を迎える労働者は、希望者全員が再雇用されることになるが、2回目以降の再雇用契約では再雇用の時期と労働者の年齢により、再雇用されるかどうかが決まることになる。
● 関連の改定項目
  そのほかの主な改正点として、以下の2点は押さえておきたい。
  ひとつは、継続雇用制度の対象となる高年齢者が雇用される企業の範囲が、グループ企業まで拡大されることになった。子会社、関連会社の範囲については、会社法等を参考に厚生労働省令で定められる。
  もうひとつは、これまでは高年齢者雇用確保措置に違反している企業に対しては、厚生労働大臣が必要な指導、助言及び勧告しかできなかったが、平成25年4月1日からは、この勧告に従わない企業の企業名等を公表できることになった。
● 最後に
  再雇用制度では、定年前までの労働条件とは別の勤務形態や賃金体系で、企業はその希望者を再雇用することができる。企業力アップのためにも再雇用された労働者の意欲向上を目的とした、評価制度の見直しや第2退職金(再雇用終了時に支給する退職金)等も検討をしていく必要があろう。
  違反企業名の公表制度という社会的制裁措置が導入されたことも考えれば、施行までの期間が短いものであるとしても、法改正に則した就業規則の改定等の準備を早急に行うことが必要なのではないだろうか。
参照 :厚生労働省ホームページ「高年齢者雇用対策」
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/koureisha/index.html
  
古賀輝行(こが・てるゆき)
古賀社労士・FPオフィス 代表
〒169-0073
東京都新宿区百人町1-4-15 竹見ビル304号 新宿オフィス・サポート内
E-mail:kogasrfp26-22@ae.auone-net.jp
1951年2月22日生まれ(61歳)。損害保険会社に26年間、生命保険会社に12年間勤務後、2011年退職を機に個人事務所「古賀社労士・FPオフィス」を立ち上げる。
客先企業の顧問社会保険労務士としての業務のほかに、ファイナンシャル・プランナー(FP)として、ライフプラン、生命保険、社会保険の相談業務やセミナー講師を行っている。
  
  
2012.10.29
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