>  今週のトピックス >  No.2520
東電の株主代表訴訟に見る、経営者のリスク対策動向
● 役員への責任追及、ますます厳格化
  今年3月、東京電力の株主42人が新旧役員27人を相手取り総額5兆5045億円に上る損害賠償請求を行いました。この金額は史上最高額です。11月16日が第3回口頭弁論期日となっており、現在係争中ですので予断を許しませんが、もし請求通りとなれば、新旧役員が個人として負担する賠償額は巨額にのぼることが予想されます。
  最高裁判所の調査によれば、地方裁判所における株主代表訴訟の係属件数は、2006年以降増加傾向にあります(2011年は215件にのぼり、過去最多)。この背景として考えられるのは、以前は不正融資による損失、談合摘発による損失など企業不祥事によって生じた損失に対する責任追及が主なものでした。近年はこれらに加え、従業員のインサイダー取引を防止できなかったことによる会社の価値の毀損、市場価格より低い価格でTOBに応じたことによる損失、TOBが成立しなかったことによる損失など、さまざまな理由で役員への責任追及がなされるようになってきていることが挙げられます。
  さらに、役員への責任追及の度合いも厳格化の傾向にあり、近年は高額賠償判決が相次いでいます。大手ミシンメーカー巨額損失事件・・・583億円(東京高裁H20.4.23)、乳酸菌飲料メーカーデリバティブ取引損失事件…67億円(東京高裁H20.5.21)、肉まん無認可添加物混入事件…53億円(大阪高裁H19.1.18)などです。これらは「企業活動が社会に与える影響力の増大」、「企業のコンプライアンスへの期待の高まり」、「企業の社会的責任(CSR)の要請」といった社会通念の変化に伴い、会社の常識・慣習よりも、法律・ルールをより重視する姿勢へ裁判所が転換していることや、旧来の考え方を踏襲する役員に厳しい評価を下すことで、会社役員に求められる法的責任の重さ、厳しさを問う姿勢に転換していることが背景にあると言われています。
  そして、役員への責任追及がなされるリスクは、在任中のみにとどまらず、退任後も継続します。さらに亡くなった後も相続人が責任追及されるリスクがあります。
  また、一般法人だけでなく、公益法人制度改革によって社団法人や財団法人の役員にも同様のリスクが想定されることにも注意が必要です。
● 経営者リスクの予防策と防御策
  上記のようなリスクへの対策は、大きく予防と防御に分けられます。
  予防策としては、
   @役員向け教育の実施
Aリーガルチェックの体制構築
B内部統制システムの構築(リスク管理の体制を作り実行する)
  また、防御策としては
   @役員代表訴訟に関する対応体制の確立
A役員の責任軽減制度の利用
B弁護士の確保(法人と被告の役員は利益相反関係にあり、法人の顧問弁護士に委任することができないため)
C役員賠償責任保険(D&O)への加入(損害賠償金、訴訟費用、弁護士費用、防御ノウハウ、提携弁護士の紹介・活用)
  が考えられます。
  将来にわたって企業活動を円滑に推進するためには、株主代表訴訟から会社や役員を守る手立ても必要です。そのためには、Cの保険加入にとどまらず、上記の様々な対策を組み合わせることが大切です。
2012.10.29
前のページにもどる
ページトップへ