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相続財産に係る譲渡所得課税の特例、検査院が見直しを指摘
● 見直し以来20年近く経過した「取得費加算の特例」
  会計検査院はこのほど、財務省に対し「相続財産に係る譲渡所得の課税の特例」について意見を表示した。
  この特例は、相続税の課税対象となった相続財産の譲渡が相続の直後に行われる場合、特に相続税納付のために相続財産の譲渡が行われる場合には、相続税のほか、値上がり益である譲渡所得金額に対して所得税が相次いで課されることから、相続税と所得税の負担の調整を図るため、昭和45(1970)年に創設されたものだ。
  同特例は、平成5年度税制改正において、既に前年以前に相続財産である土地等を譲渡し、譲渡収入金額から取得費加算額として控除した金額がある場合は、相続した全ての土地等に対応する相続税相当額からその金額を差し引いた額を取得費加算額とするとの見直しが行われた。
  以来20年近くが経過する間に、地価公示価格の大幅下落や、譲渡所得税率が平成16年以降は15%に半減など、特例を取り巻く状況は大きく変化している。
● 特例の必要性は著しく低下と指摘
  そこで、会計検査院では、特例の適用状況の調査を始め、特例による相続税と所得税の負担の調整の状況、特例を取り巻く状況の変化を検証したところ、所得税の更なる負担の軽減や相続税を物納した場合との負担のバランスを図るために行われた平成5年改正による相続税と所得税との更なる負担の調整は、特例を取り巻くその後の状況が大きく変化した結果、その必要性が著しく低下していると認められる、との判断を示した。
  その上で、平成5年改正による相続税と所得税のさらなる負担調整は、その必要性が著しく低下しているのに、特例に対する検証が行われないまま、現行制度の下で土地等を多く相続した者の中に所得税額が著しく軽減されている者が見受けられるなどの事態は、特例が本来の趣旨に沿って有効に機能しているとは認められず、改善を必要とする事態にある、と指摘した。
  このような事態が生じている原因は、財務省において見直しのための検証が不十分なためとして、同省に対し、特例が有効かつ公平に機能しているかの検証を行った上で、特例について、相続財産の処分が相続の直後に行われた場合、特に相続税納付のために相続財産の処分が行われる場合における相続税と所得税の負担の調整という本来の趣旨に沿ったより適切なものとするための検討を行うなどの措置を講ずるよう意見を表示している。
参考 :会計検査院「租税特別措置(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)の適用状況等について」
http://www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/24/pdf/241019_zenbun_3.pdf
  
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト
1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に「住基ネットとプライバシー問題」(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍「生命保険法人契約を考える」
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.html
  
2012.11.05
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