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社会保険料の“130万円の壁”は崩れるか?
● 働く女性に立ちはだかる壁
  結婚している女性のなかで、短時間労働であるパート形態で働いている人も多いと思われるが、この人たちには「103万円の壁」と「130万円の壁」があるといわれている。
  具体的には、103万円は所得税、130万円は社会保険料が徴収されるラインとなっているのだが、「社会保障と税の一体改革」の年金関連法のうち、3党合意を受けて成立した「年金機能強化法」(公的年金制度の財政基盤及び最低保障機能の強化等のための国民年金法等の一部を改正する法律)には、短時間労働者に対する厚生年金・健康保険の適用拡大が盛り込まれている。平成28年10月には施行の予定だが、これにより「壁」はどうなってしまうのだろう。そのことを考えさせてくれたのが、先に厚生労働省から発表された「パートタイム労働者総合実態調査」である。
● 壁の動きを見てみよう
  この調査は5年に1回行われ、パートタイム労働者の就労実態等を明らかにする目的で実施されているのだが、その調査項目のなかに「就業調整の有無及び就業調整の理由」を尋ねる項目がある。
  このなかで、配偶者のある女性回答だけに絞った上位項目を、過去3回分並べたものが以下の表である。
  【配偶者のある女性の就業調整の理由別パート等労働者の割合上位項目】    (複数回答)
就業調整をする理由 平成13年 平成18年 平成23年
@ 自分の所得税の非課税限度額(103万円)を超えると税金を支払わなければならないから 72.9% 64.0% 63.0%
A 一定額(130万円)を超えると配偶者の健康保険、厚生年金等の被扶養者からはずれ、自分で加入しなければならなくなるから 40.4% 45.9% 49.3%
B 一定額を超えると配偶者の税制上の配偶者控除が無くなり、配偶者特別控除が少なくなるから 47.7% 48.0% 37.7%
C 一定額を超えると配偶者の会社の配偶者手当がもらえなくなるから 26.8% 28.0% 20.6%
  これを見ると、@所得税がかかる境界の103万円と、A社会保険料のかかる境界の130万円で就業調整が強く意識されているのがわかる。しかも、「103万円」を意識している層は減少傾向にあるものの、逆に「130万円」を意識している層は増えており、両者は大差がないところまで近づいているのがわかる。
● 社会保障と税の一体改革の巨大な壁
  このように、パートで働く主婦の半数近くが意識している130万円の壁であるが、先の「年金機能強化法」では、その境界が月額賃金8.8万円となった。つまり、年収ベースでは130万円から106万円程度に引き下がり壁の内側にとどまるのは現在より厳しいものとなる。
  確かに社会保険料の負担は大きく、厚生年金と健康保険・介護保険だけで、実に報酬の15%近くが天引きされてしまう。したがって、被扶養配偶者として第3号被保険者になっていた方が実入りは良い。
厚生年金保険料の個人負担率  →  8.383%(平成24年9月〜平成25年8月)
健康保険+介護保険の個人負担率  →  5.775%(平成24年度協会けんぽ全国平均)
  多くの人が回避したい社会保険料の徴収ラインが、年収100万円を超えたあたりまで引き下がることになれば、「130万円」と「103万円」の二つの壁は融合してしまい、『社会保障と税の一体改革の巨大な壁』がそびえ立つことになるであろう。
  もちろん、厚生年金・健康保険の適用拡大には、従業員501名以上などの条件がつくので全員が該当するわけではないものの、厚生年金の保険料率などは年々引き上げられることが決まっており、このままでいくと、多くの夫婦が就業調整によって年収を30万円程度減らすことになるであろう。
  折しも、その少し前には消費税も引き上げられている(平成26年4月に8%、平成27年10月に10%)であろうから、手取り収入がどんどん減っていく実感を持つ人が増えていくだろう。
  個人のライフプラン的には「節約は美徳」なのだが、経済全体から見れば、財布の紐が締まり過ぎるのも決して好ましいことではない。誰もが『社会保障と税の一体改革の巨大な壁』を超えたくなるような景気拡大がない限り、壁の内側の人たちばかりが増えてしまいそうな感じがする。
参照:厚生労働省ホームページ「平成23年パートタイム労働者総合実態調査の概況」
http://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/koyou/keitai/11/
2012.11.26
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