>  今週のトピックス >  No.2538
ケアマネジャーのあり方を見直す動き
● ケアマネジャーの資質向上は重要な課題
  在宅で介護保険サービスを使う場合、コーディネートの要となるのが介護支援専門員、つまりケアマネジャーである。介護保険制度とともに誕生した職種だが、病院・施設から在宅へという流れが強まる中、不安感の募る要介護者世帯にとって、心理的にも「頼るべき存在」という位置づけが顕著になっている。
  そのケアマネジャーの立場が揺らぎつつある。今年度の介護報酬改定を議論してきた厚労省の「介護給付費分科会」で、ケアマネジャーを巡る具体的な課題が示された。「利用者の状態や課題に応じた適切なアセスメント(疾患や障害にかかる情報収集や課題分析)ができていないのでは」、あるいは、在宅利用者の重篤化が進む中で「医療関係職種との連携が不十分なのでは」などの指摘である。
  そのうえで、平成27年度に予定される次期報酬改定までに「ケアマネジャーの資質向上とあり方」の検討を行なうことが示され、今年3月から厚労省内で有識者等による会合「介護支援専門員(ケアマネジャー)の資質向上と今後のあり方に関する検討会」が催されている。10月に開催された6回目の会合では、試験や研修制度のほか、現在使用されているケアプランの様式の見直しなど、抜本的な改正を進める方向性が示された。
● ケアマネジャーは「できることは自分で」の旗振り役!?
  これらの改革によってケアマネジャーの資質向上が進むのであれば、利用者側としても歓迎すべきことだろう。だが、一方で利用者側としては気になる文言も見られる。例えば、介護保険における「自立支援」の考え方の徹底という部分で、「利用者や家族の要望のみに基づいたケアマネジメントではなく、自立支援を前提としたケアマネジメント」という改革の方向性が上がっている。
  介護保険財政がひっ迫する中で、40歳以上の国民が負担する保険料は改定期ごとに右肩上がりを続けている。その中で利用者側としては、「負担に見合っただけの要望に応えてほしい」という思いが強まるのは自然と言える。そこで「要望のみに基づいたケアマネジメント」の否定論を目にすれば、「こちらの要望以上に重要な自立支援とは何なのか」という素朴な疑問も浮かんでくるだろう。
  国としては、「当事者の重度化防止に向けてリハビリ等に積極的に取り組んでもらう、機能低下を防ぐため『できること』は自分でしてもらう」という意図がある。団塊世代が65歳以上を迎える中、制度を破たんさせないためには基軸となる考え方には違いない。だが、要介護世帯の現実はどうなのかという視点が抜けてしまえば、利用者側の認識との間で大きな溝が生まれることになりかねない。
  少子化で高齢者のみの世帯が増え、その高齢者の雇用や年金支給も不透明さが増している。そうした中で、重篤な利用者が在宅へと移行すれば、同居家族を含め、世帯全体が大きな負担を背負いかねない。そんな状況下、「できることは自分で」というビジョンのみを強調しても、ケアマネジャーと利用者の間の信頼感が揺らぐだけだろう。支援困難世帯が増える中での「自立支援」とは何か。タウンミーティングなどを通じ、国民的な議論を地道に深めることが必要なステップといえる。
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2012.11.29
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