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相続税の実地調査で3,993億円の申告漏れを把握
● 相続税無申告、10年間で最多の932件、1,213億円
  国税庁がこのほど発表した相続税調査事績によると、今年6月までの1年間(平成23事務年度)に21・22年中に発生した相続を中心に1万3,787件(前事務年度比0.9%増)を調査し、うち80.9%に当たる1万1,159件(同1.0%減)から3,993億円(同0.0%)の申告漏れ課税価格を把握し、加算税を含め757億円(同5.1%減)を追徴した。実地調査1件当たりでは、申告漏れ2,896万円、追徴税額549万円だった。
  また、申告漏れ額が多額や、故意に相続財産を隠ぺいしたなどにより重加算税を賦課した件数は1,569件(前事務年度比17.3%減)で、その重加算税賦課対象額は581億円(同4.6%減)だった。
  申告漏れ相続財産の金額を構成比でみると、「現金・預貯金」が36.2%(金額1,426億円)を占めてトップ、次いで「有価証券」(16.0%、631億円)、「土地」(16.0%、630億円)などと続いている。
  国税当局では近年、申告・納税義務があるにもかかわらず申告しない者が後を絶たないことから無申告事案の調査にも力を入れている。
  無申告事案については、前事務年度より34.2%多い1,409件の実地調査を行い、うち932件(前事務年度17.2%増)から1,213億円(同14.9%増)の申告漏れ課税価格を把握し、85億円(同4.6%増)を追徴した。申告漏れ等の非違件数、金額は過去10年間で最も多かった。
  無申告事案1件当たりの申告漏れ課税価格は8,609万円と、相続税調査全体のほぼ3倍、高額な海外資産関連事案(6,478万円)をさらに上回る。
● 初の贈与税事績、非違件数の8割強が無申告事案
  国税庁は相続税調査とともに、初の贈与税調査事績も明らかにした。それによると、相続税の補完税である贈与税については、無申告事案を中心に、積極的な調査を実施しており、平成23事務年度は5,671件(前事務年度比16.2%増)の実地調査を行い、うち94%に当たる5,331件(同17.1%増)に申告漏れ等の非違があり、申告漏れ課税価格280億円(同1.7%減)を把握、79億円(同13.4%減)を追徴課税している。実地調査1件当たりの申告漏れ課税価格は494万円(同15.4%減)で追徴税額は140万円(同25.5%減)となる。
  贈与税で問題なのは、贈与税の申告漏れ等非違件数の82.3%が無申告事案であることだ。申告漏れ財産の内訳をみると、「現金・預貯金等」が約177億円(構成比63.3%)で6割強を占め、次いで「有価証券」が約25億円、「土地」が約22億円、「家屋」が約3億円となり、生命保険金や金地金などといった「その他」が約52億円だ。「現金・預貯金等」の贈与は、税務当局にばれまいと高をくくっている納税者が多いことを裏付ける。
  例えば、海外に居住する息子Aは、父Bから学費や生活費として多額の資金の贈与を受けており、その資金を金融資産の購入に充てていたにもかかわらず、贈与税の申告から除外していた事実が調査で判明。また、国内金融機関のA名義口座にBから給与名目で多額の送金を受けていたものについても、無申告だった。Aは、申告漏れ課税価格約4,700万円(うち重加算税対象額約800万円)に対して約2,300万円が追徴課税されている。
参考 :国税庁ホームページ「平成23事務年度における相続税の調査の状況について」
http://www.nta.go.jp/kohyo/press/press/2012/sozoku_chosa/index.htm
  
浅野 宗玄(あさの・むねはる)
株式会社タックス・コム代表取締役
税金ジャーナリスト
1948年生まれ。税務・経営関連専門誌の編集を経て、2000年に株式会社タックス・コムを設立。同社代表、ジャーナリストとしても週刊誌等に執筆。著書に「住基ネットとプライバシー問題」(中央経済社)など。
http://www.taxcom.co.jp/
○タックス・コム企画・編集の新刊書籍「生命保険法人契約を考える」
http://www.taxcom.co.jp/seimeihoujin/index.html
  
2012.12.03
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