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ノロウイルス、過去10年で2番目のペース
● 強力な感染力から厚労省が注意喚起情報を発信
  11月27日、厚労省より各報道機関に対し、「ノロウイルスによる食中毒や感染に注意」と題した情報が伝えられた。食中毒と言えば夏場の流行を想像しがちだが、ノロウイルスによる感染性胃腸炎は冬場にピークを迎える。このノロウイルスによる感染性胃腸炎の患者数が、今季は過去10年で2番目のペースで増加していることを受けての注意喚起である。
  ノロウイルスは、汚染されている二枚貝などを十分に加熱調理しないまま食したりする中で感染することが多い。また、患者のノロウイルスが大量に含まれるふん便や吐物などから、人の手を介して二次感染するケースも目立つ。患者のおう吐物などで汚染されたカーペットを通じて2週間以上たってから感染が拡大した例もあり、感染源となっているものをしっかり処理しないと、断続的に感染が続くという状況に陥ることもある。
  ノロウイルスによる感染性胃腸炎の場合、多くは軽症にとどまり、厚労省の統計では過去10年で死亡者は記録されていない。しかし、これはノロウイルスによる感染性胃腸炎と死亡の因果関係が見極めにくいことも背景にある。過去に高齢者介護施設などで集団感染が発生した際には、おう吐物を誤って飲み込んでしまったことによる誤嚥性肺炎などで死亡例が確認されている。また、高齢者にとっては、おう吐、下痢などによる脱水リスクも指摘されるなど、冬場のインフルエンザと同等の警戒が求められる。
● 最大の予防は徹底した「手洗い」
  ノロウイルスは感染力が強く、いまだ効果のある抗ウイルス剤は存在しない。治療に際しては、脱水を防ぐための輸液など対症療法に限られているのが現状だ。従って、十分な予防措置と脱水などの重症化を防ぐための水分と栄養補給が必要になってくる。予防策の基本は「手洗い」にあるが、注意したいのは、石けん等にノロウイルスを失活化する効果はなく、あくまで手指の汚れを落とすことでウイルスを「はがす」ことが目的という点だ。
  そのため、集団感染などのリスクが想定される介護施設などでは、食事介助の前や排せつ介助の後に限らず、一つひとつのケアのシーンごとに手洗いを徹底することが必要になる。また、利用者の状態像や職員の健康状態などに注意を配り、おむつ処理の方法(ビニール袋に密閉して廃棄するなど)のマニュアル化や下痢症状のある職員を業務につかせないなどのリスク対応も求められる。
  問題なのは、冬場の極寒期に入り、在宅での生活が厳しくなってくる中で緊急のショートステイ需要などが高まることだ。逆に、年末年始だけ家族と一緒に過ごすべく、施設からの一時退所がなされるケースもある。このように人の動きが慌ただしくなってくると、職員を欠勤させたりする余裕もなく、また、マニュアル等の施行もおろそかになる懸念が高まる。感染症リスクの高まりは、介護現場等の構造的な問題もかかわっていることを、国も現場レベルも頭に入れておく必要がある。
参照 :厚生労働省ホームページ「ノロウイルスによる食中毒や感染に注意」
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002pa7y.html
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2012.12.13
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