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厚労省、高額療養費制度の見直しを提案
  筆者が傍聴した、11月16日(金)開催の第58回社会保障審議会医療保険部会において、厚生労働省から健康保険の高額療養費制度についての見直しが提案された。決定には至っていないものの、今後の動向に注目したい。
● 高額療養費制度の現状
  長期入院や手術により医療費が高額となるのにともない、健康保険の自己負担額も高額となることがある。そこで、高額療養費制度により、同一の医療機関等で支払った額が、暦月(月の初めから終わりまで)で一定額を超えた場合に、その超えた金額を高額療養費として支給している。年齢や所得に応じて、本人が支払う暦月の負担額の上限が定められており、また所定の要件を満たせば、さらに負担を軽減する仕組みも設けられている。
70歳未満の方 70歳以上の方
所得区分 本来の
自己負担限度額
多数回
該当
個人単位
(外来のみ)
世帯単位
(入院含む)
一般  80,100円+(医療費−267,000円)
 ×1%
44,400円 外来12,000円 44,400円
低所得者 35,400円 24,600円 外来 8,000円 24,600円
上位
所得者
150,000円+(医療費−500,000円)
×1%
83,400円 外来44,400円  80,100円+(医療費−267,000円)
 ×1%
 (多数回該当44,400円)
   ・上位所得者 75歳未満は、標準報酬月額が53万円以上の人
75歳以上は、一部負担金割合3割の人
・低所得者 住民税非課税の人
・多数回該当 直近12か月間に、既に3回以上高額療養費の支給を受けている場合
  たとえば年齢70歳未満、所得区分「一般」、月の医療費100万円の場合、自己負担限度額は、80,100円+(1,000,000円−267,000円)×1%=87,430円となる。
  窓口負担30万円との差額である、212,570円が高額療養費として支給されるので、最終的な自己負担額は87,430円となる。多数回該当の場合は、44,400円である。
● 高額療養費制度の問題点と提案された改善策
  高額療養費制度の自己負担限度額が暦月単位であるため、年間の医療費が同じであっても、自己負担額に差が出てくることがある。
<医療保険部会に提出された例>
1月〜12月の1年間の医療費が約280万円で、一般所得者層に該当する者の場合
ケース@
高額療養費適用前の1〜3月の自己負担が月約10万円(医療費約33万円)
4〜12月の自己負担が月約6万円(医療費20万円)
高額療養費の適用があるため、年間の合計自己負担額は約64万円となる。
(80,100円×3か月+44,400円×9か月+当初3か月の医療費×1%)
ケースA
1〜12月の自己負担が月約7万円(医療費約23万円)
高額療養費の適用がないため、年間の合計自己負担額は約84万円となる。
(約7万円×12か月)
同じ年間医療費であるにもかかわらず、年間の自己負担額に約20万円の差があり、アンバランスが生じてしまう。
  提案された改善策は、暦月単位の上限額に加えさらに、「年間上限額(64万円)を設ける」というもの。これによりケース@とケースAの自己負担額の差がなくなり、ともに年64万円となる。この年間上限額は、年齢区分、所得区分により異なる額とする。
  高額療養費を見直した場合の対象人数は、年間5万6,000人が見込まれている。多くの方に影響が及ぶ可能性のある提案であり、特に医療保険販売にもかかわることから今後の議論の行方に注意を払いたい。
参照 :厚生労働省ホームページ「第58回社会保障審議会医療保険部会配付資料」
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002oeje.html
  
古賀輝行(こが・てるゆき)
古賀社労士・FPオフィス 代表
〒169-0073
東京都新宿区百人町1-4-15 竹見ビル304号 新宿オフィス・サポート内
E-mail:kogasrfp26-22@ae.auone-net.jp
1951年2月22日生まれ(61歳)。損害保険会社に26年間、生命保険会社に12年間勤務後、2011年退職を機に個人事務所「古賀社労士・FPオフィス」を立ち上げる。
客先企業の顧問社会保険労務士としての業務のほかに、ファイナンシャル・プランナー(FP)として、ライフプラン、生命保険、社会保険の相談業務やセミナー講師を行っている。
  
  
2012.12.26
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