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「討論型世論調査」は政策決定に有効か!?
● 原発政策を転換させた「討論型世論調査」の威力
  12月16日に投開票された第46回衆議院議員総選挙では、原発や消費税、TPPなどさまざまな問題で論戦が展開された。とくに原発の是非については、8月22日に政府が公表した「エネルギー・環境の選択肢に関する討論型世論調査」の結果が大きく影響しているように見受けられた。
  この調査は中長期のエネルギー政策を検討するために実施したもので、無作為に選ばれた6,849人を対象に最初に「原発ゼロのシナリオを支持するかどうか」を世論調査し、そのあとで2日間の討論会に参加した285人を対象に討論前と討論後に回答してもらうという3段階で実施された。調査結果で注目されたのは、2030年時点の原子力発電への依存度でゼロを支持した者が、最初の世論調査で33%だったのが、討論前では41.1%となり、さらに討論後は46.7%へと高まったことだ。
  調査前の政府は、原発の必要性は理解されるだろうとの期待もあり、「2030年の原発比率を15%程度」にし、脱原発世論への配慮と電力不足回避の折衷案を落としどころと考えていたが、調査結果判明後は軌道修正を行い、9月にまとめた革新的エネルギー・環境戦略では「2030年代の稼働原発ゼロ」を打ち出さざるを得なくなったという経緯から、この原発の是非を問う調査結果をご記憶の方も多いことだろう。
● 年金問題を調査したらどうなるか
  さて、この夏世間に登場した「討論型世論調査」(DP=deliberative poll)は、通常の世論調査とは異なり、1回限りの表面的な意見を調べる世論調査だけではなく、討論のための資料や専門家から十分な情報提供を受け、小グループと全体会議で討論した後に、再度調査を行って意見や態度の変化をみるという調査方法である。
  現在の公共政策に関する問題は、人々が十分な知識・情報を持ち合わせず、意見や態度を決めることすら難しいものが多く、その克服のための一手法として、このような調査が試みられている。参加者は、調査対象の問題について表面的な理解ではなく、長期的な視点に立った十分に熟慮された意見を示すことができるようになることが、諸外国の実験結果からも明らかになっている。
  1988年に米国で考案され、英国をはじめ各国で40回以上実施されており、日本でも上記調査以外にいくつかの実績がある。その一つ「年金をどうする〜世代の選択」と題する調査報告書が慶應義塾大学DP研究センターから2012年1月に公表されており、興味深い結果が出ている。
  この報告書の主な結果を挙げると、下表のようになる。
主な設問に対する回答 討論前 討論後
基礎年金の全額税方式化は賛成 27% 47%
基礎年金の最低保障年金の創設は反対 35% 47%
所得比例年金の積立方式は支持する 63% 35%
年金支給開始年齢は維持すべき 60% 70%
社会保障の財源確保のための消費税増税は賛成 64% 75%
社会保障目的税化したうえでの消費税増税は賛成 56% 72%
  三党合意による社会保障・税一体改革における主要な制度改正内容の決定は、今後の「社会保障制度改革国民会議」を経て、2013年8月までに法制上の措置が講じられることになっているが、上記のような調査も踏まえたものになるのか、その検討経緯にも十分に注目していきたい。
参照:慶應義塾大学DP(討論型世論調査)研究センターホームページ「年金をどうする〜世代の選択」
http://keiodp.sfc.keio.ac.jp/?page_id=37
2012.12.26
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