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安倍新政権誕生で介護施策はどうなるか?
● 介護については原則、これまでの流れを踏襲
  昨年12月16日に投開票が行われた第46回衆議院選挙の結果、自由民主党が圧倒的過半数を獲得し、政権復帰を果たすことになった。今回の選挙結果は社会保障の仕組みにどのような影響を及ぼすのか。選挙前に掲げられた主要政党の公約をチェックし、団塊世代が全員65歳以上となる2015年を間近に控える中、特に「介護」を軸とした動向に注目してみたい。
  まず、政権復帰を果たした自民党の公約を見てみよう。社会保障の大枠としては、@年金、医療、介護について社会保険制度を基本とする、A保険給付に要する公費負担の財源は消費税収を中心とし、保険料負担を含めた国民負担の増大を極力抑えるとしている。
  一方、介護分野については、介護従事者の処遇改善や研修等の支援によるサービスの質の向上を図りつつ、効率化・重点化を進めるとしている。今回の選挙では、多くの政党に共通することだが、具体的な目標数値や詳細な施策を示すケースが少ない。そのため、施策イメージに漠然とした印象が否めないだけでなく、前政権の掲げてきたキーワードが(例えば、処遇改善や効率化・重点化など)踏襲されている様子も数多く見られる。
  そもそも、公費負担に充てるとした消費税の増税は、最終的に自民党も賛成している。また、社会保障制度改革推進法に基づく施策推進が掲げられている。これも自公民三党の合意のもとで成立し、これを法的根拠とする社会保障制度改革国民会議はすでに議論が始まっており、今後もほぼ踏襲されるだろう。
● 自民、「要介護にならないための施策強化」打ち出す
  野党へ退いた民主党はというと、介護については「医療と介護の連携の推進」や「在宅サービスの充実」「認知症の人とその家族への支援」など、やや踏み込んだ表現を使っているが、いずれも前政権が示した社会保障・税の一体改革の内容から出ていない。むしろ気になるのは、待機者40万人と言われる特養ホーム等の増設への言及が見られないことだ。代わりに「安心して暮らせる住宅の提供」として、前政権で推進したサービス付き高齢者向け住宅への言及と思われる部分がある。
  このあたりについては、自民党と与党を組む公明党も同様だ。同党の公約では「サービス付き高齢者向け住宅の拡充・整備を進める」と明記されている。もちろん、独自公約として、@介護従事者の処遇改善を進めるための基金を創設する、A介護予防の取組みを評価して保険料を軽減する「お元気ポイントの導入」などは掲げられている。だが、いずれも消費税の増税分でまかなわれる施策という点で、選挙前の三党合意がベースとなっている(なお、昨年12月25日に自公の間で連立政権合意が結ばれたが、「社会保障と税の一体改革」という前政権が唱えてきた題目を使用。その中身も、「社会保障制度改革国民会議における議論を推進する」という具合に、現段階では大幅に踏み込んだ表現は避けている)。
  つまり、介護分野に関しては前政権からの政策はほぼ継続される見込みが強い。唯一異なるのは、自民党が「自助・自立を第一に共助・公助を組み合わせる」という具合に、前政権の「自助・共助・公助の組み合わせ」という表現から一歩踏み込んだ点だろう。同じ与党・公明党の「お元気ポイント」と併せた場合、「要介護にならないための施策強化」が浮かぶ。これが介護の仕組みを変えていくものになるのか、注目したいポイントの一つだ。
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2013.01.10
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