>  今週のトピックス >  No.2562
介護予防事業の進ちょくと課題
● 二次予防対象者、前年度比で倍増
  昨年12月28日、厚生労働省から「平成23年度介護予防事業(地域支援事業)の実施状況に関する調査結果(概要)」が公表された。現行の介護保険制度では、要支援1・2の認定を受けると介護予防サービスが適用されるが、今回の調査対象となっているのは、自立と認定された人に対する予防事業である。これを地域支援事業と呼び、「要支援・要介護にならないようにする」ことを目的に、一部介護保険と同じ財源(公費と保険料)が使われている。
  地域支援事業における介護予防は、大きく分けて二次予防と一次予防の2つの事業に分類される。前者は要支援・要介護になるリスクが高い人に提供されるもの、後者はそれ以外の元気な高齢者を対象としている。実施主体は介護保険の保険者(市町村など)で、地域包括支援センターが委託を受けて実施するケースが多い。ひっ迫する介護保険の財源を使うわけであるから、「介護予防への効果」が厳しく問われることになる。そのあたりの評価を含めた調査結果が示されている。
  まず注目されるのは、二次予防の対象者が、人数・高齢者人口比率、ともに前年度に比べて倍増した点だ。地域支援事業がスタートした平成18年度は(全高齢者人口の)わずか0.6%に過ぎなかったが、それが9.4%まで跳ね上がっている。高齢者層の平均年齢が上がり、それだけ要介護リスクの高い人が増えたという見方もあるだろう。だが、それ以上に保険者による実態把握が進んだとも言える。
● 予防事業に参加している高齢者の拡大が課題
  二次予防対象者のリストアップとしては、要介護認定の過程で把握されるケースと、65歳以上の高齢者に基本チェックリスト(日常生活機能の様子を尋ね、要介護リスクの状態をチェックするリスト)を配布し、その結果をもとに把握するケースがある。平成22年度は、基本チェックリスト実施者が29.7%だったのに対し、平成23年度は回答者が34.9%となっている(平成22年度までは主に健診等の場で行っていたが、平成23年度からは配布→回答というスタイルをとっている)。
  ただし、実態把握が進んだとしても、対象者が実際に介護予防に参加しているかどうかが大きなポイントだ。二次予防事業には、通所型や訪問型などがあるが、これらに参加している高齢者の割合は、平成23年度でも0.8%にとどまっている。事業開始から右肩上がりは続いているが、それでも対象者の10分の1以下という数字は社会保険事業として適正かどうかが問われると言える。
  平成21年度から、二次・一次予防事業ともに、「どれだけ介護予防としての効果が上がったのか」などを検証する評価事業が行われている。評価事業に参加する保険者は、二次・一次ともに初めて5割を超えた。だが、先のように予防事業への参加意欲をなかなか促せない状況が続けば、せっかくの評価事業も絵に描いた餅になりかねない。新政権は、社会保障に関して「自助・自立」を前面に打ち出しているが、それが介護予防事業の推進に結びつくのかどうか。新年度からの具体的な対応策が注目される。
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2013.01.24
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