>  今週のトピックス >  No.2568
終末期医療のこれからを考える
● 医療等をめぐる団体によっても微妙に異なるガイドライン
  医療現場における、患者個人の意思や尊厳を重んじる流れが進む中、患者の終末期における治療方針をどうやって立てていくかが大きな課題となっている。そうした中、平成24年12月27日、厚生労働省において「終末期医療に関する意識調査等検討会」の第1回会合が催された。現状の終末期医療における民意(一般国民のほか現場の医療従事者等を含む)はどうなっているのか。そのあたりの最新の意識調査を実施するとともに、その結果をもとに課題分析を進めることを目的としたものだ。
  平成18年に富山県の市民病院で人工呼吸器取り外し事件が発生して以降、「尊厳死」のルール化を求める議論は活発化している。厚労省は平成19年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を策定したが、一方で、医療等をめぐる各種団体(日本医師会や日本老年医学会、日本学術会議など)も厚労省の示したものを掘り下げる形で独自のガイドラインを設けている。
  例えば、@本人の病態等によって意思決定が困難、かつ、A家族の中でも意見がまとまらないという場合、厚労省のガイドラインでは「多専門職種からなる委員会が治療方針等について検討・助言を行なう」としている。この委員会について、院内・施設内委員会が手掛けるのか、第三者機関等を交えるのかというあたりで、各団体のガイドラインに微妙な差異が見られる。
● 国会議員の間でも「尊厳死」の見解は一致せず
  さらに、国会では、超党派の議員が参加する「尊厳死法制化を考える議員連盟」(議連)が設けられている。この議連でも、スムーズに議論が取りまとめられているわけではない。平成24年6月、延命措置の不開始もしくは中止に対して民事・刑事・行政上の責任を問わない要件を示した、いわゆる「尊厳死法案(終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案)」が議連総会に提出された。しかし、「延命措置の不開始」か「中止も含むのか」という点などで議連内でも見解が分かれており、議連総会への提出は複数案となり法案の国会提出には至っていない。
  患者の生命と死にかかわる問題であるだけに、関係者が慎重になるのは理解できる。となれば、やはり軸となってくるのは、当事者となる一般国民、および患者と現場を向き合う医療等従事者の「声」であろう。実は、過去にも調査(平成19年度終末期医療に関する調査)が、一般国民および現場の医療・福祉従事者を対象に実施されている。だが、この5年間で医療をめぐる環境とともに患者側の意識も変化していることが考えられる。また、具体的な治療方針等について、質問内容のさらなる掘り下げも求められている。
  難しいのは、最新の調査結果が出たとして、そこに現れた国民や現場の意思をどう受け止めるかという点だ。生命と死という個人の根源的な価値観が問われることを考えれば、仮に少数意見であったとしても安易に切り捨てることはできない。多数意見をくみつつ、少数意見も尊重する──まさに民主主義の基本が問われる作業と言えるだろう。関係者には、この困難を乗り越える気概が求められている。
参照 :厚生労働省ホームページ「第1回終末期医療に関する意識調査等検討会」
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000002sarw.html
  
田中 元(たなか・はじめ)
介護福祉ジャーナリスト。群馬県出身。立教大学法学部卒業後、出版社勤務を経てフリーに。高齢者介護分野を中心に、社会保障制度のあり方を現場視点で検証するというスタンスで取材、執筆活動を展開している。主な著書に、「2012年改正介護保険のポイント・現場便利ノート」、「認知症ケアができる人材の育て方」(以上、ぱる出版)、「現場で使える新人ケアマネ便利帖」(翔泳社)など多数。
  
2013.02.04
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